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視点


地球シミュレーターの警告

No204 2006年4月

 京都議定書発効から1年。その記念日でもある今年の2月16日、「気候大異変」というNHKのスペシャル番組が2夜にわたって放映された。近年の異常気象と地球環境の変動の関係を探るため、冒頭に登場するのが「地球シミュレーター」だ。

 「地球シミュレーター」は、日本が世界に誇るスーパーコンピューター(NEC製)で、2002年、気象の変化を予測するため、海洋科学技術センター向けに5年の歳月と500億円をかけて構築された。広大な格納庫のような部屋に整然と並ぶスパコンが、1秒間に35兆6,000億回もの計算を実行する。 

 番組では「地球シミュレーター」がはじき出した100年後の地球の驚くべき姿がリアルに伝えられていく。予測によれば、2100年の世界のCO2濃度は倍増し、気温は約4.2度上昇するという。異常気象の多発。日本では30度超えの真夏日が更に約70日も増え、集中豪雨や超大型台風の襲来も増加する。さらに地球規模では、熱帯雨林アマゾンの砂漠化、旱魃による世界的規模での食糧危機、永久凍土の融解や海面上昇そして環境難民の発生、熱帯性感染症の拡大…など温室効果ガス増加による気候変動が生態系を壊し、さらなる温暖化を加速する様が現実感を持って迫ってきた。

 20世紀の100年間に、地球の平均気温は0.6度上昇。しかも1990年代の10年間は、過去1000年で最も温暖な10年となったことが観測されている。その温暖化を引き起こす大気中のCO2濃度は今も加速的に増え続けている。

 何千年にもわたって280ppm程度で安定してきたCO2濃度は、産業革命以来の人間の文明活動により上昇し続け、現在は377ppm(3月14日直近の観測データを気象庁が発表)。お風呂にたとえれば、排水口にあたる海や森のCO2自然吸収量(年31億t)に対し、注ぎ込む蛇口の人為排出量(年63億t)は倍に達し、年に32億t(1.5ppm)ずつお湯の水位(CO2大気蓄積量)は上がり続けているというのである。しかもその蛇口から注がれるお湯の量は更に年を追って増加しているのだ。

 この危機的状況を回避するため、人類の壮大な挑戦がすでに開始されている。1992年の国連「気候変動枠組み条約」で、「温室効果ガスの大気中濃度を自然の生態系や人類に悪影響を及ぼさない水準で安定化させる」という究極目標が合意され、その延長線上に最初の具体的な削減目標を取り決めた「京都議定書」(1997年採択)がある。

 「京都議定書」は、2008〜2012年の5年間平均で先進国の温室効果ガスの排出量を、90年比5%以上削減(日本の削減目標は6%)することを目指したもので、排出量世界第1位の米国が01年に離脱するなど紆余曲折はあったものの、ロシアの批准によりようやく昨年2月に発効した。これを受け我が国では、「京都議定書目標達成計画」があらためて策定され、国をあげた部門別削減目標や実現のための諸施策が盛り込まれた。この4月からは、全国で約12,000の大規模事業所の温室効果ガス排出量の算定・報告・公表制度もスタートする。

 しかし足元の現実は、決して容易なものではない。わが国の04年度の排出実績は基準年比7.4%増となるなど、6%削減の目標達成はきわめて危ぶまれる状況にある。しかもこれは、地球温暖化防止の最初の第一歩にしか過ぎない。前述のお風呂の水位上昇に歯止めをかけるには、温室効果ガスの排出量をいつかは吸収量と同じ量(約50%削減)にまで減らさなければならないのである。

 今年2月、日英の環境省が共同して「2050年脱温暖化プロジェクト研究」に取り組むことが発表された。深刻な温暖化影響を回避するため気温上昇を2℃以内に抑える必要があり、そのためには2050年の世界の温室効果ガス排出量を1990年レベルの50%以下に削減する必要があるとの試算をもとに、脱温暖化社会実現に向けた社会制度や産業構造、技術や生活スタイルなどの変革の道筋について、複数の長期シナリオを示していこうというものである。

 5%削減でも四苦八苦しているのに、50%削減など気の遠くなるような話ではあるが、それだけいま人類につきつけられている事態は深刻であることを認識しなければならない。すでに欧州諸国は、60〜80%削減に挑戦する中期目標を設定し、「気候変動税」や「排出権取引制度」の導入など着々と手を打ってきつつあることも事実だ。

 日本は、省エネ努力の結果、先進国中最高水準のエネルギー効率を誇る国と言われてきた。かって世界最大の都市江戸で、高度な循環型社会を実現していた伝統を持ち、「MOTTAINAI」の心はいまや世界で通用する言葉となりつつある。グローバル化と少子高齢化の大波の中で我が国の置かれた状況は、決して容易なものではないが、だからこそ21世紀の経済と環境の好循環モデル・脱温暖化社会のモデルとなるべく、「環境立国」としての腰を据えた国家戦略が必要となっているのだ。

 いま日本がやるべきことは…@まず京都議定書の削減目標の確実な達成に全力をあげる。A2013年以降の次期約束期間に向けては、米国や中国を含むすべての国が参加する枠組み作りに向け交渉のイニシャティブを発揮する。B脱石油社会をめざし、世界一の省エネ国家としての更なる挑戦。水素社会への世界一番乗り。世界一のソーラー(太陽熱)先進国の実現。原子力利用の持続的拡大などに注力する。C京都メカニズムの一つである「CDM」(途上国で削減事業を実施した場合、削減量の一部を排出権として自国の削減分に充当できる仕組み)を積極的に活用し、環境技術により世界規模の省エネルギーの推進に貢献する。D既存税制のグリーン化とともに、「温暖化対策税」や「排出権取引制度」など市場メカニズムを活用した経済的手法についても、国民的議論のもと導入を英断する。Eモノの豊かさから、シンプルで「LOHAS」な新しい豊かさ・生活スタイルの創造にみんなで挑戦する。…などではないか。(固茹卵)


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