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寄 稿
生活時間調査による仕事時間と家事時間
早稲田大学政治経済学術院助教授 上田 貴子

男女間で仕事と家事に使う合計時間はほぼ等しい

 少子化が進行する中、仕事と育児の両立支援が社会的な課題になっており、仕事と生活の両立を意味する「ワーク・ライフ・バランス」が求められている。実際のところ、働く男女は仕事や家事にどれだけの時間を割いているのだろうか。

 実は、生活時間については5年毎の「社会生活基本調査」で政府調査が行われており、調査日の生活行動を記録してもらう日記方式により、かなり正確な生活時間配分が把握されている。このような生活時間調査は多くの先進諸国で実施されており、先進諸外国と日本の間で、睡眠・食事等の生理的必要時間や、余暇時間といったおおまかな生活時間配分はあまり変わらないことがわかっている。仕事と家事に使う「合計労働時間」についても、日本が特に長いということはない。また、合計労働時間は、男女間でほとんど差がない。


夫の長時間労働は、家事を分担(したくても)できない理由か?

 諸外国と顕著に異なる特徴としては、日本の男性の家事時間の短さが指摘されている。しかし、仕事と家事の合計時間が男女間で均等しているのだから、「男性も家事を」などという要求は不当であるように思われる。ただし、前述の特徴はあくまでも「平均」であり、女性の場合には就業状況により生活時間が大きく異なることに注意が必要である。子供がいる夫婦の場合、1週間の合計労働時間は専業主婦で平均57時間前後、パート等で働くと64時間弱、フルタイム勤務だと73時間近くになる。フルタイム勤務で妻と子供のいる男性の合計労働時間は62時間強であるので、共働きなら妻の負担の方が大きい。

 「共働きの夫はもっと家事を分担しているかもしれず、夫の方も平均で考えるべきではない」という反論があるかもしれない。しかし、妻の就業状況別に見ても夫の家事時間はほとんど変わらない。夫・妻ともに週35時間以上働いているフルタイム共働きの場合で、妻の合計労働時間は夫よりも週9時間半長く、その分、妻の自由時間や睡眠時間は夫よりも短い。

 「リストラや新卒採用の抑制のため、父親になる年齢である30歳台の男性の労働時間が過重になっている」可能性も考えられる。実際、男性有業者の仕事時間は30歳台後半がピークになっている。しかし、それでも前述の共働き夫婦の合計労働時間の格差の3分の1程度しか説明できない。また、平成3年・8年・13年調査で、この年齢層の男性の仕事時間に変化は見られず、労働時間が長くなっているわけではない。ただし、成果主義の導入などで労働の内容が厳しくなっているために負担感が増している可能性まで否定するものではない。


多くの夫の平日の家事時間はほとんどゼロである

 実は、この調査では多くの夫は全く家事行動をとっていない。妻がフルタイム勤務の共働きであっても、家事行動を記録している夫は平日で約1割、日曜日でも5人にひとり、買い物でやっと3人にひとり程度である。多くの家庭で、家事は妻まかせという現状が浮かび上がる。

 この調査の短所として、・記録は15分単位でごみ捨てなどの短い行動は記録されない、・ついでの行動、例えば自分がお風呂にはいりながら子供もお風呂にいれた場合は育児には分類されないことなどが「夫の家事時間ゼロ」の反論材料になってきた。・については詳細な記録に限界があるが、・については13年に一部の調査対象について調査を行っている。残念ながら男性の場合「ついでの」家事行動を算入しても1日平均で2分程度の家事時間の増加にしかならないようだ。


女性の生活時間はライフステージにより変化する

 日本における生活時間研究から、男性は就職してから定年退職するまで生活時間にほとんど変化はないが、女性は就業状況に加えて結婚・出産などのライフステージによっても生活時間が大きく変化することがわかっている。平日の場合で家事時間の要因分析をすると、女性は結婚するだけで2時間(結婚前に両親と同居している場合は2時間半強)家事時間が長くなり、乳幼児がいるとさらに2時間(ゼロ歳児では4時間)の追加になる。介護も家事時間を増加させる。仕事時間が長くなると家事時間は短くなるが、例えば1時間仕事時間が長くなっても家事時間の減少は30分に満たないので、合計労働時間は増えてしまう。

 就業には収入が伴うため経済的な観点は欠かせない。と同時に、就業すれば当然仕事に時間を割くことになるのだから、生活時間の観点もまた重要であろう。週合計労働時間は、親と同居の独身女性と子供のいる専業主婦でほぼ等しい。女性であれば、独身時代は親と同居、結婚・出産で退職、育児時間が少なくなってからパート勤務へ、という選択をすれば、どのライフステージでも夫なみかそれ以上に合計労働時間を抑えることができる。しかし、それでは女性のキャリアも収入も棒にふってしまう。DINKSでもある程度合計労働時間を抑えることは可能だが、それでは子供をあきらめることになってしまう。


豊かな暮らしと豊かな時間を

 「本当の豊かさとは」と問うた時、ある程度の経済的なゆとりに加えて、ゆったりと流れる時間の中で、趣味や生活を楽しめる暮らしを、と考える人は多いのではないか。例えば、夫婦ともに通勤・仕事時間が週45〜50時間、家事時間が15時間で、合計60〜65時間程度の労働時間なら、現状のフルタイム勤務の夫とパート勤務の妻の生活時間にほぼ匹敵する。その中で、ライフステージに応じて仕事時間を柔軟に増減できる。収入も生活時間もバランスのとれた、そういう働き方ができるような社会を求めたい。

※ 仕事時間には仕事と通勤、家事時間には家事・買い物・育児・介護を含む。




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