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寄 稿
政党政治の再生へ
立教大学法学部教授 中北 浩爾

<参院選は何を示したか>

 先般の参議院選挙は、民主党の大勝、自民党の大敗に終わった。しかし、連合の高木会長が記者会見で述べたように、民主党の勝利は「敵失」とみるべきであろう。民主党の訴えが有権者の心を掴んだというよりも、社保庁問題や事務所費問題、はたまた閣僚の相次ぐ失言といった追い風が、たまたま吹いたにすぎない。

 だが、この自民党の敗北は、政党政治史上、大きな意味を持っている。憲法の改正や教育基本法の改正をはじめ「戦後レジームからの脱却」を掲げ、「草の根」の保守層の動員によって、選挙での勝利を勝ち取ろうという安倍自民党の目論見が、脆くも崩れ去ったからである。自民党は参院選にあたって発表した重点施策の第一に「新憲法の制定」を打ち出していた。

 安倍首相は、かつて小泉政権の自民党幹事長として党改革を進め、その一環として党の理念の明確化を図った。その最大の成果は、結成50周年の党大会で決定された新綱領のなかに、新憲法の制定や教育基本法の改正を盛り込んだことである。それは、もちろん選挙を睨んでのことであった。安倍自身の言葉によると、それこそが民主党を跳ね返す「強靭さ」なのであった(拙稿『生活経済政策』2006年12月)。

 しかし、安倍政権が進める「戦後レジームからの脱却」は、その期待に反して有権者の関心を呼ばなかった。自民党は、小泉政権が弱体化させた伝統的な支持基盤に代わる、「草の根」の保守層の動員に失敗したのである。しかも、参院選での大敗にもかかわらず、安倍首相に代わるリーダーは現れていない。自民党は人材の育成にも行き詰っている。


<融解する政党政治>

 かといって、支持基盤の面でも人材育成の面でも、民主党が自民党以上の成果を収めているとはいえまい。また、二大政党間の政策的な対立軸は、明確化しつつあるとはいえ、投票を左右するほどまでには有権者に浸透していない。日本の政党政治は、全体として融解しつつあるのである。

 政党政治の融解は、なによりも国政選挙での投票率の低下に示されている。今回の参院選での投票率は、前回より2ポイント程度上昇したとはいえ、有権者の半分強の58.6%にすぎない。1990年代初頭、政治改革により政党の離合集散が進んだのを背景として、10ポイント程度低下して以来、政党支持の減退に伴う低投票率という基本的な傾向は変わっていない。

 先日行われた朝日新聞社の世論調査も、政党政治の融解を裏付けている。今の政党が「期待される役割を果している」とみる人は10%にすぎず、「そうは思わない」が83%に上った。また、支持政党の候補者に「必ず投票する」は51%にとどまり、とりわけ自民・民主の二大政党では、その割合が低い。

 膨大な無党派層の存在は、大きな問題である。この調査でも、無党派層を自認する割合は47%で、そのうち特定の政党を支持したいが、今は支持できない人々が38%にも及んでいる(『朝日新聞』2007年6月18日)。無党派層の支持をその都度の風任せで当てにするのではなく、無党派層を支持者に積極的に組み込んでいくことこそが、政党がとるべき行動であろう。


<政党政治の再生へ>

 議院内閣制の下で、政党は政治の要になる存在である。教科書的にいうならば、政党は国会に基盤を置いて内閣を作り上げ、個別の政策に体系性を与え、政治を担う人材を発掘・育成し、国民と政治の間の紐帯となるべき組織である。政党政治の融解は、すなわち政治の機能不全を意味する。

 今、民主党が求められているのは、政権交代だけではない。融解しつつある政党政治の再生もまた、民主党の取り組むべき課題なのである。そのために必要なのは、やはり理念の明確化である。明確な理念を打ち出すことで、自らを自民党と区別し、有権者を動員し、政策に体系性を与え、優位な人材を引き付ける。民主党は、安倍自民党の「戦後レジームからの脱却」とは異なる、魅力的な理念を生み出さなければならない。

 新たな理念の提示は、党内に委員会を設置して話合うだけでは不十分である。むしろ、代表選挙を活性化させ、アメリカの大統領予備選挙のように一定期間盛り上げ、有権者と幅広い対話を行ないつつ、複数のリーダーが斬新な理念を掲げて競い合う、そのようなメカニズムを作り上げるべきであろう。それなくして、政党政治が再生することは、おそらくありえない。

今回、民主党は「格差の是正」を掲げて参院選を戦った。それは、「労働を中心とする福祉社会」という連合の方針とも適合的である。しかし、「格差の是正」では、部分的な政策にとどまり、目指すべき国家像としては不十分である。それをいかにバージョン・アップしていくか。民主党の最大の支持団体である連合の果すべき役割は大きい。



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