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視点


最低賃金制度の役割強化にむけた政労使合意に期待する

No219 2007年9月
注目を集める最低賃金

 例年になく、最低賃金が注目されている。

 雇用形態の多様化に伴う非正規労働者の増加や都市と地方の経済格差の拡大を背景とするいわゆる格差問題が、深刻な社会問題として提起されてきた。そして、低賃金労働者の所得や生活水準を引き上げ、格差の固定化を防止するための方策の1つとして、地域別最低賃金の引き上げが重要な政策課題となっている。また、団体交渉を通じて労働条件の改善を図る機会を持たない未組織労働者が増加してきたなかで、最低賃金制度の持つ賃金のセーフティーネットとしての役割が重要性を増している。

 都道府県ごとに定められる地域別最低賃金の改定にあたっては、毎年夏に中央最低賃金審議会(以下、「中賃」)が、都道府県をABCDの4ランクに分けて、ランク別改定額の目安を決定する。これを受けて、都道府県の地方最低賃金審議会は、この改定額の目安や地域経済の実情を考慮して地域別最低賃金額を決定する。平成18年度の地域別最低賃金額(時間額)は、全国加重平均で673円である。最も高いところはAランクに属する東京都719円、次いで神奈川県717円であり、最も低いところはDランクに属する青森・岩手・秋田・沖縄各県で610円である。このように地域別最低賃金の現在の水準は、たとえフルタイムで働いたとしても単身者がまともな暮らしを維持できるかどうかというギリギリの水準であり、地域によっては生活保護費をも下回っている。また、この水準は国際的にみても、1000円を上回る欧州主要国の水準や2009年までに7.25ドルへ段階的に引き上げられる米国の連邦最低賃金の水準と較べて大きく見劣りするものである。

 このように地域別最低賃金が低水準にある要因として、最低賃金制度の開始当初は中卒初任給をベースに金額設定の議論が行われていたことが指摘されている。また、中賃の示す目安額が、ほぼ例年、30人未満の民間企業の事業所の実勢賃金の上昇率見合いの水準で決まってきたこともその要因の1つである。このような目安額の決まり方が続いた結果、最低賃金の考慮要素の1つである「労働者の生計費」への配意は十分ではなかった。さらに、今次景気回復において中小企業の業績回復や賃金改善がなかなか進まなかったことも加わって、ここ数年における目安額は極めて低位にとどまってきた。こうした実態は、現在の最低賃金制度が、経済社会の大きな変化に十分対応したものにはなっておらず、その結果、雇用・労働政策において果たすべき役割を十分に発揮していないという課題を浮き彫りにしている。


最低賃金をめぐる足もとの動向

 政府は、最低賃金制度の見直し・強化をはかるために、本年3月、第166回通常国会において、最低賃金額を考慮する際の基準に「生活保護費との整合性」を加えることや違反への罰則強化を盛り込んだ最低賃金法の改正法案を提出した。また、政府は、同じ3月に、有識者、産業界・労働界の代表者及び政府関係閣僚で構成する「成長力底上げ戦略推進円卓会議」(以下、「円卓会議」)を立ち上げ、中小企業における生産性向上と最低賃金の中長期的な引上げの基本方針についての政労使の合意を目指している。そして、7月9日に開催された第3回円卓会議において、最低賃金の底上げを含む中小企業底上げ戦略に関する4項目について合意がなされた。その合意の中で円卓会議は、中賃に対して、「円卓会議における議論を踏まえ、従来の考え方の単なる延長線上ではなく・・・働く人の『賃金の底上げ』を図る趣旨に沿った引上げが図られるよう十分審議」することを要望した。

 政府においてこのような取り組みが行われるなかで、8月10日、中賃は、平成19年度地域別最低賃金の引き上げ額の目安を、Aランク19円、Bランク14円、Cランク9?10円、Dランク6?7円(全国加重平均14円・約2%)とすることを決定した。都道府県において、仮にこれに準拠して地域別最低賃金額が決定されるとすれば、9年ぶりに引き上げ額が2桁となる。今年度の実勢賃金の上昇率は0.7%で、金額に換算すると5円程度になることからして、これまでの枠組みから一歩前に踏み出した結果であったという意味では特筆すべきことであり、円卓会議における政労使合意に対する一定の配慮がうかがえる。

 とはいえ、平均14円という水準は、低賃金労働者の賃金底上げを期待できるものとは言いがたく、7月13日の中賃で厚生労働省が13?34円といわれる水準を試案として示したことからすると、使用者側への配慮がにじみ出た決定であったと言わざるをえない。また、最も低いDランクの目安額は、Aランクの約1/3という低水準にとどまっており、都市と地方との格差は縮小するどころか拡大するという結果となった。
 
 
合意形成にむけた関係者の努力に期待

 今後、最低賃金制度を働く者のセーフティーネットとして十分に機能させるためには、国会及び円卓会議における各般での合意形成が極めて重要である。

 1つ目は、国会における最低賃金法改正にむけた与野党間の合意形成である。衆議院で多数を占める与党と、参議院の第1党となった民主党をはじめとする野党との間において、セーフティーネットとしての制度の役割強化の観点から、すでに上程されている法案の補強を含め、法改正に向けた十分な審議と合意が求められる。

 2つ目は、中央の円卓会議での政労使のトップ合意である。年内を目途にとりまとめることとしている「生産性向上と最低賃金の中長期的な引上げの基本方針」が、中賃での審議において十分に反映されるためには、最低賃金額のあるべき水準、最低賃金額の決め方の基準及び審議方法等について、労使トップが納得するまで議論を尽くすことが重要である。加えて、実行段階における政府、労働組合(労働者)及び使用者団体(企業経営者)のそれぞれの果たすべき役割・責任を予め明示しておくことが、合意内容の実効性を高めるために重要である。

 3つ目は、都道府県版の円卓会議での政労使のトップ合意である。産業・雇用の実情は地域によって各種各様であり、また地域別最低賃金を最終的に審議し決定するのは都道府県の審議会である。したがって、中央の円卓会議での合意を踏まえつつ、中小・零細企業の生産性向上策を含めた地域の特色に応じたきめ細かな対策の検討が不可欠である。

 これらの取り組みが、低賃金労働者の生活水準の引き上げや中小企業の成長底上げにつながるよう、合意形成にむけた各界トップの努力に期待したい。(Jumbo)


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