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寄 稿
社会保障財源と税制改革の視点

立教大学経済学部准教授 関口 智


 1.社会保障財源の傾向

 周知のように、日本の社会保険財政の特徴は、給付費の財源を社会保険料で賄いきれず、相当程度の公費負担がなされていることにある。

 近年の議論は、とりわけ負担の経済的中立性の観点から、賦課ベースが労働所得(支払賃金)に限定されている社会保険料の負担(社会保障負担)の水準を抑制する一方で、公費負担を増加させる傾向にある。そして、公的負担の増加として念頭に置かれているのは、ほとんどの場合、消費税の税率引き上げであり、特に重視される視点は、勤労世代と退職世代という「世代間」の負担の公平と「安定的財源」である。確かに、そのような主張に共感を覚える部分もあり、これからの社会保障サービスを充実させるための一つの財源になることは間違いない。


2.現行税制の現状

 しかし、問題なのは、現実の租税制度の設計・実施状況と租税論の理念との間に若干の乖離があるにもかかわらず、それを意識せずに楽観的に消費税依存論や所得課税低下容認論を展開している論者も見受けられる点にある。この点を整理しつつ、現状の問題点を明確にしなければ、国民的合意に基づいた、望ましい税制改革の議論を行うことは難しい。

 第一に、確かに、消費税による「世代間」の負担の公平の確保を主張することは正論であるが、所得税の利点である「世代内」の負担の公平の議論を同時に行わなければ、バランスを欠いた議論となる。「世代内」の所得・消費分配の不平等を是正する点においては、所得階層別負担が逆進的な消費税は全く無力だからである。

 第二に、所得税が累進課税の理念どおりに機能すれば「世代内」の負担の公平を確保できるが、その所得税も、現状では理念どおりに機能しているとは言い難い。このことを意識した議論も必要である。現行所得税が累進課税の理念から乖離している要因の一つに、資産性所得に適用される税率が、累進税率ではなく、比例税率になっていることがある。これに対する評価には、主として効率性の観点から肯定的な見解と、公平性の観点から否定的な見解があることは、研究者の間では周知の事実であるが、多くの国民に理解されているとは言い難い。  

 第三に、日本の所得税の課税形態と北欧諸国での二元的所得税の類似性を指摘し、資産性所得に対して比例税率を是認する見解は、一面では理解できる。しかし、話はそう単純ではない。そもそも導入の背景や租税体系、所得税の仕組から見て、前提が異なっているからである。スウェーデンでは、日本と異なり、包括的所得税の理論どおりに帰属家賃に課税し、その対応関係から支払利子の所得控除を認めていた。しかし、その措置が高所得階層の租税回避に利用されてしまっていた。二元的所得税の導入の背景は、日本に制度では問題とならない支払利子の所得控除の問題を解消し、公平性を改善するためでもあった。そのため、比例税率とはいえ税率30%と著しく高く、さらに純資産税による応能課税の補完がなされ、納税者番号制度で公正性も確保している。このように考えると、少なくともスウェーデンの二元的所得税は、所得税の枠内でも、租税体系全体から見ても、資産性所得を軽課している課税形態であるとはいい難い。

 第四に、「世代内」の負担の公平を意識して、所得税において高齢世代の年金所得が累進課税の適用対象になるように、公的年金等控除額を縮小する近年の改正と議論は望ましい方向である。ただ、高齢「世代内」の負担の公平を議論する際にも本来焦点とすべきは、年金所得以上に、資産性所得の取り扱いであるべきであろう。資産・所得格差の最も大きい世代は、高齢世代だからである。

 第五に、生涯所得は生涯消費に等しいので、消費税は所得に対して逆進的な租税ではないとの指摘も一面では正しい。しかし、留意すべきは、この議論が成立するのは生涯所得を全額消費した場合に限られる点である。利己的動機・利他的動機等、さまざまな動機に基づいて、人々は一生の間に得た所得を全額消費せず、遺産(貯蓄)として残す。

 一般的には、高所得階層ほど限界消費性向が低い(=限界貯蓄性向が高い)。このことは、全額消費の前提が崩れると、消費税は所得に対して逆進的であり続けることになることを示している。消費課税を主張するのには熱心であるが、その場合、資産移転税(相続・贈与税)で補完しなければ、理論的にも完結しないことも主張しなければ、バランスを欠いた議論である。「世代間」扶養型社会保険の限界とその改革が叫ばれ、「世代間」の公平が意識されるのであれば、「世代間」移転に直接関与する資産移転税(相続・贈与税)にも整合性を求めるべきであろう。


3.税制改革の視点

 社会保障財源論や租税論の立場から重要なのは、消費課税のみならず、所得課税や資産課税を含めた、均衡の取れた税制改革を志向することである。

 確かに、消費税の税率引き上げは財源調達の面から魅力的であるが、インボイス制度(仕入税額控除の際に税額を明記した請求書等の保存を求めること)の可否、逆進性対策、国と地方の税源配分等、それ以前に議論していくべき課題も多く、楽観視すべきではない。また、現行税制の負担が勤労世代に集中しがちであるのは、消費税のウェイトが低いことだけに原因があるわけではない。現行の所得税が資産性所得を軽課し、給与所得を中心とした課税となっていることから、社会保障負担を含めた所得課税の負担が勤労世代に集中する仕組みになっていることにも原因がある。

 一方で所得弾力性の高い歳入構造(所得課税)を志向し、他方で安定的な財源をもたらす歳入構造(消費課税)を志向してもなお、政府サービスを必要とする国民的合意のある場合に、再分配的な給付(租税支出含む)との組合せで「安定的財源」として消費課税の引上げを考えるべきであろう。



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