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視点


生活にゆとりを取り戻す

No223 2008年1月

 サブプライムローン問題に端を発したアメリカ経済の減速が明らかになってきた。2002年からの景気回復の原動力は輸出だったが、それを支えてきた要因のひとつであった好調な世界経済にも不透明感が出てきたことから、日本経済が順調に推移していくかどうか、今後の個人消費の動向が注目されることになろう。しかし、最近の原油価格の上昇によりガソリン価格も高騰しており家計への影響が懸念されるなど、不確定要素もかなりみられ、予断を許さない状況にある。

 不確定要素があるなかで、個人消費が伸びていくには所得の向上が第一条件である。すなわち、この数年間高い水準にあった企業収益を、勤労者に対する成果配分として還元することが何よりも必要である。確かに株主配当も増えており、財産所得の増加の形で家計部門に還元されているといえなくもないが、概して勤労者世帯の株式保有率は高くないことから、利益還元としては賃金の引上げが不可欠である。

 この数年来高騰が続いてきた素原材料価格等のコスト上昇を反映して、日用品のなかにもメーカーがその価格を改定(値上げ)するものがみられるようになってきた。ものの値段が上がるようになると、賃金(所得)も同程度上がらないと実質的な購買力は下がることになる。勤労者が実感する物価も上昇しつつある。連合総研「勤労者短観」(12月号に概要が掲載されている)の物価上昇D.I.からもそれがわかる。「1年前と比べて物価が上がった」と答えた割合から「下がった」と答えた割合を引いて計算した値は、2007年4月時点の調査では18.8であったが、10月調査では38.6と大きく増加した。賃金アップにあたっては物価の動きも十分考慮することが必要である。

 消費が伸びるためには、賃金上昇(所得向上)に加えて時間的なゆとりも必要である。時間的なゆとり、すなわち、「ワーク・ライフ・バランス」が確保されることにより、暮らし方の改善あるいは自らの労働力の質向上につながるような消費需要も高まっていくものと考えられる。もちろん長時間労働のために忙しくて自分ではできないから(長時間労働という働き方は変えずに)家事等を他人に頼む、といったサービスの消費もあるだろう。しばしば“家事は私たちに頼んで、その分あなた自身の時間を確保しませんか?”といった内容の広告も目にする。なお、生じた時間は“ワーク”の時間として利用するのではなく、“ライフ”に使わなければいけない。加えて、生活の質を良くする、という観点からは、“ライフ”そのものへの消費増加も期待される。「勤労者短観」では2006年10月に、今後増やしたいと考える時間は何かと尋ねた。増やしたい時間として最も多く挙げられていたのは、趣味やスポーツなどにあてる時間であった(次に挙げられていたのは、家族、友人との時間、家事、地域活動である)。労働の質向上という面では、自己啓発のための消費(投資)も伸ばしていく必要がある。「勤労者短観」でみると、過去1年間に自己啓発したかどうかとの問いに対して、30%が「その時間はなかった」と回答している。社会人を対象とする講義を提供している大学も増えているが、多くは平日の夜間と土曜日に開講されている。仕事の後に受講することになるから、残業はできない。働き方を見直して時間を作らなければならないのである。男性の例でみると、勤務のある日の仕事時間が8時間以上10時間未満のカテゴリーでは、「自己啓発はしたいが時間がない」と回答した比率は22%であったが、12時間以上になると42%にものぼる。

 さて、「ゆとり」などと悠長なことを言っている場合ではないといわれるかもしれないが、今は余裕がなさすぎである。無理をし過ぎているといってもよい。働いている本人に加えて周辺にいる人も無理をしている。無理をし過ぎることなく働き続けることができるようにしなければならない。ここで一例を挙げる。子供を持ちながら働くことを選択する女性が増えてきた。多様な保育ニーズに応えることが必要とされ、夜間遅くまで開園している保育園も増えつつある。夜間や祝日に働く必要のある場合もあろうし、残業があるために夕方までの保育園開園時間では足りずそうした保育サービスを利用するケースもあろう。遅くまで預かってくれるから、“安心して”長時間労働を続けることができる。また、最近、育児休業を取得する男性もかなり見られるようになってきた。男性の育児休業取得は、企業が「ワーク・ライフ・バランス」に配慮していることを示す良い事例として紹介されたりもする。取得すること自体は大変結構なことである。取得した人の話を聞くと、育児休業を取得している間に職場のほかの人に負担がかからないよう、十分仕事の引継ぎをしたうえで休みを取得したという。

 しかし、よく考えてみると、親の働き方を変えずに(長時間労働を前提として)、子供を親の働き方に合わせるのは、働いている親と子供の双方にとって長期的に持続可能ではないかもしれない。また、育児は数ヶ月で終わらず、むしろ育児休業取得後のほうが長い。育児休業後に元の働き方(長時間)に戻ってしまうのではなく、働き方を見直す機会としなければならない。ゆとりを確保する、あるいは取り戻す、という決意が必要である。(恵)



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