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視点


持続可能な社会へ、日本のシナリオと決断が問われている

No225 2008年3月

 「7月の北海道洞爺湖サミットの最大テーマは気候変動問題である。」?今年1月のダボス会議に出席した福田首相は、特別講演の中で、最近の世界金融・経済問題とあわせ、G8サミット議長としての地球環境問題に取り組む決意を表明した。

 昨年ハイリゲンダムサミット直前に安倍内閣がまとめた「クールアース50」(2050年までの世界の温室効果ガス排出の50%削減を長期目標として盛り込んだ)を踏まえ、今回は「クールアース推進構想」を発表。ポスト京都フレームワークとして、米国・中国を含む主要排出国全員が参加する仕組みづくりや、公平な目標設定の重要性を提起。また日本として初めて国別総量目標を設定することに言及し、長期的には「革新的技術開発」の重要性と、「低炭素社会への転換」に向け、生産の仕組み、ライフスタイル、都市や交通のあり方など、あらゆる制度を根本から見直す検討に着手することを表明した。あわせて100億ドルの途上国支援を発表するなど、国内ではあまり大きく報道されていないが、人類共通の今日的課題解決に取り組むサミット議長国としての意欲を感じさせる演説であったと思う。

 しかし問題は、国内での足元の現実と大きなギャップがある事。そして今後のシナリオに向けた国民的議論が果たしてどこまでできているのかという課題である。いま問われているのは、「日本の本気度」なのである。

 今年からいよいよ京都議定書の本番である、第一約束期間(08年?12年)が始まるが、削減目標のマイナス6%とは程遠い実態にある。依然として省庁間の足並みは揃っているとは言えず、背後には国際競争力を懸念する経団連をはじめとする経済界の厚い壁が存在する。とりわけ京都議定書目標達成計画の検討施策として掲げられ、ヨーロッパ諸国ではすでに導入済みの「環境税」や「排出権取引制度」など価格メカニズムを組み込んだ政策措置については、経済団体の猛烈な反対で、入り口議論から一歩も前に進んでいない。

 2013年以降のポスト京都フレームワークづくりにしても、米国・中国を土俵に上げるための橋渡し的役割があるにせよ、日本の主体的な中期削減目標(例えば2020年30%削減など)や、それに向けてのシナリオをどうするのか、国内の合意形成は遅れているし、外から見れば「京都議定書の生みの親なのに、日本は一体どっちを向いているのかわからない。」との一部NPOからの批判や誤解を招きかねない状況となっているのだ。

 最早、問題先送りや模様眺めの姿勢は許されない。いまこそ、持続可能な社会へ向け、「21世紀環境立国」として世界に貢献していく日本の立ち位置をしっかり定め、政治が果断にリーダーシップを発揮していく時期を迎えているのではないか。そしてより具体的な施策課題としては、積み残してきた経済的手法等に対する本格的検討と、国民的議論から逃げずに正面から取り組むことである。

 そのためには、まず経済界の姿勢転換と、勇気ある決断が求められている。日本の産業・企業がこれまで公害問題や石油危機を乗り越え、血のにじむ様な努力のすえ、世界に冠たるエネルギー効率を実現してきたことは、紛れもない事実である。また厳しいグローバル競争下においても、京都議定書の削減目標に向け、懸命に汗をかいてきたことについては、職場で働く者の実感からも、正当に評価されるべきであると考える。

 しかし、現実の温室効果ガス削減対策としては、増え続ける「業務部門」「家庭部門」に含まれる電力等の間接排出分を合わせ、広い意味での「産業・企業部門」の役割と削減ポテンシャルは、非常に大きいのである。まして、先行きの大幅削減までを視野に入れたシナリオを描こうとすれば、「産業界の自主行動計画」にとどまらず、もう一段の踏み込んだ施策?すなわち「環境税」や「国内排出権取引制度」など、経済的手法にもとづく制度確立についても正面から検討し、経済界からの前向きな提案も含め、国民的合意づくりに汗をかいていく時期にきているのではないだろうか。

 英国では、1998年当時、さまざまな意見対立がある中で、イギリス産業連盟の代表であったマーシャル卿のリーダーシップにより、「気候変動税」と「政府との協定制度」「国内排出権取引」を組み合わせたポリシーミックスによる政策パッケージが提起され、2001年からの具体導入につながったと報告されている。

 いまや環境技術や環境対応型の商品開発、企業行動は競争力の源泉として認識され始めており、個々の企業レベルではどんどんと先に進みつつある。努力した者にインセンティブを与え、オープン・フェアーな状況下で、よい意味での環境競争を促す社会的仕組みづくりに注力すべきである。

 21世紀に入り、さまざまな歴史的転換ともいえる難題が押し寄せている。しかしいま私たちに求められているのは、持続可能な社会へ向け、新しい状況をどう創造していくかという、困難ではあるが次代への壮大な挑戦である。ことは環境問題だけではない。食料・エネルギー、社会保障や雇用政策、都市のあり方や農業政策、ライフスタイルや新しい豊かさへの価値観をも含めた、これからの日本がめざすべきトータルな社会像を築きあげていく総合的取り組みでもあるのだ。
(固茹卵)


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