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寄 稿
非正規労働者と労働組合
―職場の外から職場意識を変える取り組みに期待する―

国学院大学教授 東京大学私学研修員 本田 一成


 ある産別組合の労使が同じテーブルについた席で、筆者がパートタイマーの組織化についての講演を行ったときの話。主催者から、講演を聴いた数社が会社側から組合にパート組織化を申し入れたと聞かされて驚いたことがある。ビジネスに本当に有益な現場情報の収集、離職率の抑制、もの言わぬパートタイマーの不満の解消、もの言うパートタイマーの暴走的な外部通報の防止、正社員の心理的負担の軽減など、パート組織化のメリットを意識的に強調したのは事実だ。しかし、企業別組合がどれほど熱心にパート組織化を説いても動かないのに、筆者のような第3者のいうことには会社がうなずいたのである。

 正直に書こう。状況の進展しない企業別組合に対して、これ以上いくらハッパをかけてもパート組織化が永遠の課題として残されると判断する時期だろうと直感したのである。そうなら、発想を切り替え、企業別組合以外の立場から、会社を説得することを進めなければなるまい。一体誰が担うのか。産別組合やナショナルセンターはその有力候補だろう。

 他方、パート組織化組合はそれで安心してはいられない。パートタイマーを組織化したことでパート問題が解決するわけではない。むしろ、パート問題の大きさから考えればパート未組織であることが異例だとみるのが妥当であろう。そこで、次に、あるパート組織化を実現した企業別組合内部の会議での話の一部。その日はパートの賃上げ率をめぐる論議が白熱していた。


正社員役員:「今春闘では正社員のアップ率はほぼゼロだが、パートタイマーのアップ率は5%近くになる。これも今期活動の実績の1つだ。」

パート役員:「パートのアップ率が高いのはいわば当然だ。時給で10円、20円上がればたくさんアップする。また職場の時給レベルなら5円単位でものを考えるし。」

正社員役員:「これでも不満なのか。文句があるのか。」

パート役員:「アップするのに不満はない。しかし最終目的が違う。」

正社員:「いったいどういうことだ。」

パート役員:「パートタイマーのアップ率というよりも、正社員との賃金格差が拡がったのか縮まったのかが問題だ。賞与や退職金など正社員のみに支給されるものがあり、単純なアップ率の議論だけでは不十分だ。極端な話、アップ率が高くても賃金格差が拡がるケースがある。」

正社員役員:「今までと違ってアップしているのだ。着実に前進したではないか。」

パート役員:「それはナショナルセンターのようにパート全体に目を配る立場の発想だ。企業別組合はそれではだめだ。きちんとしたシミュレーションと賃金格差の趨勢の検証が必要だ。それでこそ正社員もパートタイマーも組合員として一体だ、仲間だといえるのだ。」


 こちらは残念ながら架空の話である。しかし、こんなパート役員が企業別組合に出現しないと組織化した意義は薄れるだろう。もちろん日々の活動で苦労しているとは思うが、現段階で企業別組合がこうした組合人材を育てられるのだろうかは大いに疑問である。そうなら、方策はみえている。名実を兼ね備えたパート役員を育成できる企業別組合の人間を育てるか、直接にパート組合員を役員へ育てるかしかないだろう。

 非正規労働者というが、本当は本人たちが自分を非正規だと思っていないはずだ。それぞれの労働こそが正規だと思っている。職場で汗を流す自身が尊いはずだ。しかし、職場や社会など周囲から繰り返し非正規だといわれ、正規という認識を曲げて受け入れているだけだ。

 労働実態や待遇などについてのパートタイマーに対する職場の非正規意識は頑強である。会社側が人件費削減理由でパートタイマーを雇用し、パート側が働き方の融通性理由で勤務するという点でのマッチングがあると指摘されることが多い。しかし、その水面下では、会社、正社員、パートタイマーの意識は酷似していくことを見逃してはならない。

 例えば、パートの基幹労働力化を進めていることに会社だけでなく、正社員もパートタイマーも賛成する。他方では、この三者が多かれ少なかれ正社員とパートタイマーの賃金格差を認めている。しかも想定している賃金格差の程度に大差はない。本来は別々の立場であっても、職場意識が塗り固められていく。正社員が組合員である場合には、正社員の意識を経由してパート組合活動に影響しよう。

 そうであれば、それぞれが正規だと言える自信を取り戻させるのは誰であろう。職場意識が強固なら、職場以外からそれを変える道筋をつくることも考えるべきだ。正社員の意識を変える、パートタイマーの意識を変える、会社の意識を変える、さらには企業別組合役員や組合員の意識を変えるのを企業内組合任せにするのでは、現状のままであまり変わらないのではないか。

 会社が思い切ったビジネスの変革を進めているのに、労働組合が変わらないというのはどういうことだろうか。明確な役割を考えた運動の目標をはっきりさせて、雇用の変化を積極的に組合組織の発展の機会ととらえるべきであろう。

 パートタイマーは組合を否定しているわけではない。ほとんどのパートタイマーの身近には組合がなく、もし組合があってもとても縁遠いから、パート労働条件の向上にとって組合が必要だということを知らないだけだ。知らないから例えば賃金を労働対価としか考えず、適正な賃金を受け取って生き生きと働くことを実感できないし、それを本気で実現しようともしない。
最大多数派である企業別組合を念頭においてパートタイマーに関して記したが、大筋の内容は正社員とパートタイマー以外の雇用形態にも通用する面がある。連合に非正規センターという職場の外から発言したり実践したりできる立場が設置されることで、労働界に変化の兆しがみえて半年が経過した。大いに期待する。



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