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理事長コラム
『時代を見つめる』
古賀 伸明

「インフォデミック」

File.512020年3月25日発行

新型コロナウイルスが世界全体に拡散している。WHO(国際保健機構)は3月11日に、ついにパンデミックを表明した。世界の政治・経済・社会が大混乱に陥っている。2020東京オリンピック・パラリンピックの延期も決定した。

そんなある日、ある新聞の女子高校生の投稿に目が引かれた。

家のトイレットペーパーがなくなりそうになり、母親に頼まれて近くのスーパーに行った時の経験だった。一袋だけ残っていたトイレットペーパーを手に取ろうとした時、向かいから猛ダッシュで来た中年の女性にその最後の袋を持っていかれた。女性はうれしそうに友人のところへ行き、トイレットペーパーを手にしたことを自慢した。その瞬間、とても悲しく、情けなく感じてしまった。

彼女は、元はといえば「トイレットペーパーが品薄になる」という噂がネット上で流れ、この一言から世の中が変わったと記載している。わずかな人物から始まり、SNSなどで情報が恐怖心となって伝染し、人の在り方をも変えてしまった。それは、世界中に感染が広がった新型コロナウイルスと同じくらい怖いと感じたと結んでいる。

SNSなど「インフォデミック(infodemic)(情報伝染)」が加速している。インフォメーション(情報)とエピデミック(流行)を組み合わせた言葉で、根拠のない情報を大量に広範囲に拡散することで混乱が生じることだ。新型コロナウイルス以上の速さでインフォデミックも広がっている。

SNSやインターネットは、多くの情報発信とその情報をもとに正しい判断を導く手段となる一方で、意図的なデマ拡散の格好のツールとなる。今回の感染症も中国の生物兵器、ワクチンは開発されていて製薬会社の商売目的、米軍の陰謀説などさまざまな情報がまことしやかに流れ、社会に混乱を引き起こしている。身近なところでも、前述のように、トイレットペーパーやティッシュペーパーなどが、各地の店頭で品切れとなり長い行列をつくったのがその典型である。

フェイスブックを創業したマーク・ザッカーバーグ氏は、国も武器も持たない新勢力が台頭し、既存勢力に衝撃を与えていると主張している。SNSを使う人々を行政、立法、司法、既存媒体の次の「フィフス・エステート(第5勢力)」と呼び、好意的にとらえている。しかし、本当にそうだろうか。

おそらく長期戦になるのは避けられないだろう。だからこそ、溢れんばかりの情報の中から、背景・根拠、発信源など真偽を見定めるための自分なりの基準を持ち、取捨選択していくことが極めて重要である。

また、政府には、国民のさまざまな複合的な不安に応えるための、データに基づいた公正な知見を積極的に公開し、その分析と国民へのわかりやすく丁寧な説明が求められている。

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