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理事長コラム
『時代を見つめる』
古賀 伸明

「枯葉」

File.582020年10月15日発行

猛暑が過ぎ去り、すっかり秋めいた季節となった。

日本列島も北の方から楓や銀杏などの落葉樹は、落ち葉の準備に入りはじめ葉は色づき始めている。芸術の秋・音楽の秋ともいわれる季節らしい曲として「枯葉」がある。

「枯葉」はフランス・パリで活動したハンガリー出身のジョセフ・コズマ作曲、1946年のフランス映画「夜の門」の挿入歌で、当時新人歌手のイブ・モンタンが唄った。映画はあまり人気がなかったようであるが、その後シャンソン歌手がカバーしフランスで広く知られるようになった。

そのフランスを代表するシャンソン歌手、ジュリエット・グレコさんが先月下旬、93歳の生涯を閉じた。彼女が活動していたパリ・セーヌ川左岸の多彩な芸術・文化活動が花開いた地区の名称をとって「サンジェルマン・デ・プレのミューズ(女神)」と呼ばれた。その地区で知り合った哲学者サルトルに勧められて歌手を志したという。ボーヴォワールやカミュらとも交流があることで知られていた。

彼女は第二次世界大戦後の日本のシャンソンブームの火付け役となり、60年代以降2014年まで来日公演は20回以上に及んだ。

彼女も唄った「枯葉」はシャンソンの代表的スタンダード・ナンバーだが、現在はシャンソン以上にジャズのスタンダードとして知られている。アメリカにこの曲を紹介したのは、歌手・俳優のビング・クロスビー。その後1950年代後半以降ジャズの素材として多くのミュージシャンに取り上げられ、数えきれないほどのレコーディングが存在する。

「枯葉」はさまざまなバリエーションのアプローチを可能にするコード進行がアドリブとして好まれ、ジャズに溶け込んでいったのだろう。

特に、1958年「サムシン・エルス」というLPを録音以降、ジャズの帝王と呼ばれたマイルス・デイビスの18番となり数々のアルバムで演奏し、それぞれ違った表情の「枯葉」が聞ける。また、翌年59年ピアニストのビル・エバンス・トリオの「ポートレイト・イン・ジャズ」の「枯葉」は、リズミカルなイントロから早いテンポで多彩なアドリブを展開するスリリングな演奏だ。

第二次世界大戦中、対独レジスタンスの活動家だった母親が強制収容所に入れられ、自身も警察に一時拘束された経験から、グレコさんは顕在化していない諍いも含めた戦火やネオ・ナチの台頭、そして人々のテロへの恐怖などの状況を憂いていたと聞く。

平和と自由を人一倍希求するグレコさんの低音で落ち着いた声に深い情感を込めて歌う「枯葉」をもう一度聞きたいものだ。トレードマークの長い黒髪と黒の衣装とともに。

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