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理事長コラム
『信ずること、の意味』
神津 里季生

「防衛政策をめぐる相互不信」

File.12022年12月19日発行

今月の2日に理事長に就任をいたしました。よろしくお願いいたします。

さっそく、ホームページのコラムを、と事務局からお話をいただいてから、あっという間に二週間がたってしまいました。ものを書くことはきらいではないのですが、どうも最近、時間の使い方が下手になってしまい、夏休みの宿題を新学期の直前ぎりぎりまでさぼって憂鬱な気持ちをつのらせていた遠い昔の感覚を思い出したりしています。 しかし12月も中旬を過ぎようとするに及び、さすがにこのままでは宿題をさぼったまま新年を迎えるという、実に締まりのない年越しとなってしまいます。まずは、ここのところ頭の中を去来している存念を、思いつくままに文章にしてみます。もってコラムのスタートとさせていただきます。お付き合いをいただければ幸いです。

ここのところ頭の中を去来している存念、と申しました。しかしその実情は、言うならば、よどみに浮かぶうたかたのようなものですから、どこまで丁寧に表現できるものやら自信はありません。かつ消えかつ結びての、一瞬のざれ言に終始してしまうかもしれません。だからといって、いつまでたっても、とどまりたるためしなし、では読者諸氏に対する失礼のそしりは免れません。

お前は何を言いたいのか、一言で言えば何か、ということを申し述べ、当面のタイトルといたします。

「信ずること」の意味なのです。これが、わが国の社会において、まったくもって宙ぶらりんになっていると思うのです。

「信ずること」と一口で言っても、様々な切り口があります。これからその一つひとつについて触れていきたいと思うのですが、まずはその代表選手から。 国家は人々を信頼しておらず、人々は国家を信頼していないのではないか。

1000兆円を越える国の借金は、その相互不信が積み重なった途中経過のように思われます。これには逆説もあって、お互いに信頼しているからこそ、国民一人当たりの借金が800万円規模になっても平気な顔をしていられるのだという見方もあるかもしれません。国家は、いずれ人々はこの借金を返すことのできるだけの資金力を持っていると信じており、人々は、いずれ国家はこの借金を解消できるだけの財政運営を実現すると信じていると。

しかし私には目下、その説をとるような心の余裕は持ちあわせていません。

防衛費の増をめぐるこのたびの辻褄合わせをみても、「信ずること」のかけらも見られないではありませんか。そもそも国会での議論を全く素通りにすること自体が、国家が人々を信じていないことの証左なのではないでしょうか。本当に必要なものであれば、せいせいと負担のあり方についての合意形成をはかる努力をすべきです。現実は、そもそも人々を信じていないので、復興増税のスキームを流用するなどという姑息な手段に依拠しているとしか思われません。

防衛政策は極めて重要な国家の要諦だと思います。ところが、北朝鮮という、何をするか見当がつかない独裁者が君臨する国家が目と鼻の先に位置しているにも関わらず、わが国においては、そもそも人々は自らの国家の防衛力を信頼しているか?という深刻な疑問は全く解消されていません。

お互いに「信ずること」の意味が宙に浮いたままなのです。

連合総研 理事長 神津里季生

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