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視点


少子化対策とワーク・ライフ・バランス

No209 2006年10月
 女性の活用を目的として(働く側の観点から言えば、女性が働き続けることができるようにするために)、仕事と家庭の両立支援策として行政および企業において種々の取組みがなされ始めている。雑誌や論文集でも女性の活用に関する特集が組まれることが多い。一方で、すべての労働者を対象として、仕事と仕事以外の生活をうまく両立させる、という意味での『ワーク・ライフ・バランス』の確保の重要性が指摘されるようになってきている。

 両立支援策としては待機児童の解消を目標として保育所の整備が行われ、また働く親の様々なニーズに応えるために夜間保育等も検討され、実行に移されている。就学前の子ども対策にとどまらず、義務教育就学以降の子ども対策についても、学童保育の充実など施策は盛りだくさんである。

 一方で、教育の建て直しが喫緊の課題として政策論争の一つの柱ともなっている。教育の主な部分は学校における教育であるが、家庭における教育も期待されている。夏季休業中の自由研究の課題などはその代表である。また、日本においては、学校行事への母親の関わりが大変高い。学校の保護者会などは、平日の午後(日中)に開催されるのが普通であるが、出席は99%母親である。こういった子どもの教育を考慮すれば、学童期の子どもをもつ女性のフルタイム就業は微妙なバランスの上に成り立っている。また、学校の地域をとりまく環境も一昔前と異なってきている。学校あるいは地域は、親の関わりをこれまでになく求めている。昨今の諸事件を契機に安全確保に真剣に取り組むようになっており、送迎はしないまでも、毎日登下校時に、親が交代で通学路に立つという取組みも始まっている。

 両立支援策に戻ると、たとえば保育園における長時間保育や夜間保育などがすべてを解決するわけではない。子どもの成長にあわせた長期的視点が必要である。親が長時間働くことを前提としてその間の子どもの居場所を探しまわるよりも、女性だけでなく、男性を含めて働き方を変えることのほうが、ワーク・ライフ・バランスを確保するという観点からも、必要である。

 欧米のドラマには、子どもがいてかつ父母ともばりばり働くという家庭が出てくることがあるが、ベビーシッターを利用しつつも親二人で時間をやりくりしている。子どもが小学生であると親の片方が朝学校まで送っていき、今度はもう一人のほうが午後に迎えにいくという場面が出てくる場合もある(日本では通常は、親による子どもたちの学校への送迎は必要とされていないこともあって、不思議な場面と映るかもしれない)。小学校に通わせた経験はないものの筆者自身がアメリカとイギリス、および日本でそれぞれ保育園に子どもを通わせたつたない経験から物を言うことが許されるならば、海外の保育園では、日本の保育園よりも、送迎時に他の子どもの父親と一緒になることが格段に多かった(ちなみに閉園時間は18:00であった)。もちろんこれには自家用車での通勤であれば、通勤途中に保育園に寄ることも容易いこと、またアメリカで利用した保育園は大学のキャンパス内に設置されていたので両親ともに大学関係者(研究者や教師、職員)である場合が多く、時間に融通がきくことなどの要因があったのかもしれない。

 さて、働く者が、結婚する、あるいは子どもを持つことは、個人が主体的に選択すべきことであって強制することではない。しかし、その意思はあっても将来への不安(うまくやっていけるかどうかなど)があり二の足を踏むケースがあるとするなら、障害となりそうなものを除外することが必要である。支援策を講じることに加えて、経験者の体験を蓄積して、これから両立させていきたいという社員への情報提供を行ってもよい。しかし、ごく少数の女性が労働市場に残り、制度が整っていなかったなかで苦労しつつ『頑張って』フルタイムで勤務してきた、という人たちの体験は、貴重なもので参考にすべきものであると同時に、とても真似できない経験である可能性が高い。女性また男性を問わず働く者すべてが肩肘をはらずにワークとライフとを両立できるようでなければならない。

 加えて、働き方を変えるのは何も子どもを持つ者、あるいはこれから子どもを持つことになる者に限った話ではない。両立支援策だからという理由で子どもを持つ者のみに焦点をあてると、そうでない者との差を生むことになる。これも経験からであるが、日本の職場においてはチームで仕事をすることが多いため、例えば一人が短時間勤務になると残りの作業は短時間勤務取得者以外のメンバーで負担することになる。負担が多すぎて、両立支援を行うためにとった策がそれ以外の職員の健康まで損なうことにもなってしまっては何のための施策かわからない。

 公的制度あるいは企業単位で導入されている取組みを活用しながら、「ライフ」の部分を「楽しい」と思うことができ、ワークとのバランスをとりつつ勤労生活を送っていくことができるようになることが、長期的にみても少子化対策に寄与するのである。(恵)


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