HP DIO目次に戻る DIOバックナンバー 

視点


「働き方」改革において鍵となる「共助」

No220 2007年10月
雇用情勢改善の陰で

 雇用情勢は、改善の方向に向かっている。今回の景気回復がスタートしたとされる2002年の完全失業率は、5.4%であった。その後は4年連続して低下を続け、2006年は4.1%まで低下した。直近の2007年7月の数値は、3.6%となっている。

 しかし、雇用形態別に雇用情勢をみると、労働市場におけるアンバランスな様相が浮かび上がる。「正社員」の有効求人倍率(2007年7月)の値は0.59倍で、全体の1.07倍を大きく下回っている。求人の多くは、パート等の「非正社員」に向けられている。雇用者数のデータをみても、2006年以降「正社員」が増勢に転じているものの、「非正社員」の増加傾向が止まっているとはいえない。周知のように、今や雇用者のおよそ3人に1人が「非正社員」である。


「働き方」において課題の多い「非正社員」

 
もちろん、「非正社員」という働き方自体が良くない、と決め付けることは困難である。グローバル化の一層の進展などを背景に企業をとりまく競争環境が激化する中にあって、「非正社員」の積極的な活用には合理的な面もある。従業員の側からみても育児などを理由に、労働時間が長く、転居を伴う転勤命令を受けるような働き方を嫌う結果、パートを希望する動きがみられる。

 しかし、「非正社員」の働き方については、課題が山積している。仕事の内容は「正社員」に近いのに、処遇が低いまま「非正社員」となっている者が多々みられる。勤務先で「正社員」に転換しようと思っても、それを可能とする制度がないケースも多い。

 連合総研が勤労者を対象に実施しているアンケート調査(「勤労者短観」)の結果をみても、今後1年くらいの間に自分が失業するのではないかという不安は、「非正社員」は「正社員」に比べて高い。しかし、「非正社員」のセーフティネットは極めて弱い。パート・アルバイトについては労働に関する権利や制度を十分認知しておらず、職業生活を送る上で自分の身を守る術を知らない人が多数存在している。何より企業が「非正社員」に対して実施する教育訓練投資はわずかであり、計画的なOJT、OFF-JTのいずれをとっても、「非正社員」に対する実施割合は「正社員」の半分にも遠く及ばない。


長時間労働に追い込まれる「正社員」

 
これだけ「非正社員」が増えてきている中で、「正社員」の働く時間は少なくなってきているのかというと、そういう訳ではない。2005年における(パート等を含まない)「一般労働者」の労働時間は2009時間であり、1995年や2000年の水準と変わらない。では、労働時間の分布はどうなっているのか。週60時間以上働く従業者(男性)の割合は、実は2000年以降でみるとそれほど変わってはいない。しかし、週35時間に満たない従業者の割合が増加し、中間の週35?59時間の従業者割合は減少している。「正社員」のうち、週60時間以上働く者の相対的な重みは高まっているといえる。年齢層別にみると、30歳代・40歳代の男性のうち週60時間以上働いている者は、実に4?5人に1人に及ぶ。これらの年齢層は職場で成果主義の浸透を比較的強く感じており、成果を追求するあまり長時間労働に追い込まれている面があるのではないかと危惧される。

 短い期間であれば長時間にわたって働いても踏ん張れるかもしれないが、持続的にこうした働き方ができる人は、おそらくは限られる。前述の勤労者短観の調査結果をみる限り、週60時間以上働く者は、60時間未満の者に比べて疲労の蓄積感が著しく高くなっている。疲労が蓄積されれば、健康状態に悪影響を及ぼす可能性が高まる。


「働き方」改革に向けて

 「非正社員」「正社員」それぞれにおける働き方の課題を解決していくためには、例えば会社に対して処遇の改善を勤労者自らが要求するような「自助」も重要ではあるが、勤労者の全てが強い個人ではない。会社と交渉力をもてるだけの力を有していないかもしれないし、能力はあっても会社と交渉する時間や勇気をもちあわせていないかもしれない。要は、「自助」の支援が欠かせない。

 
「自助」を支援する主体の一つとして、政府(「公助」)を挙げることができる。これまでの労働政策は陰に陽に「正社員」を対象としている場合が多く、特に「非正社員」について公助を発動する余地は、今後も大きいと思われる。

 
しかし、働く「現場」に直接携わる労使の取組みなくして、「非正社員」が安心して働ける環境を整備したり、長時間労働を是正したりすることは難しい。「公助」による制度を会社に導入しても、それが実際に活用されるか否かは、「現場」の者が制度の趣旨をどこまで納得しているか等に大きく左右される。仏に魂を入れるのは、「現場」の労使を置いて他はない。「公助」もさることながら、日々の「現場」の取組み(「共助」)は、やはり大きな鍵を握る。

 
また、働き方の改革については、そもそも「共助」の範疇でないと成し得ないことも多いはずである。例えば、長時間労働を是正する一方策として、日々の仕事の中の無駄をみつけそれを削減していくことが挙げられるが、そのためには「現場」が発案し、討議する取組みが重要となる。その結果、プレゼンテーションの際には必要以上に凝った資料を作成しないようにするとか、営業時間中に翌日に備えた商品陳列を行うといったアイディアが生まれ、現場の一人ひとりが「腑に落ちる」形で無駄の削減に取り組むようになる。

 こうしたヒントは、実例の中に詰まっている。個々の企業が「働き方」を改革しようとする際、「好事例集」は様々な示唆を与え得る。しかし「好事例集」の中には、通り一遍の制度紹介に終わってしまっているケースもある。「現場」が本音のところ何に悩み、どのように苦闘して取り組んできたのかというプロセスを十分踏まえつつ、「働き方」改革の事例を整理・紹介することは、困難ではあるが取り組む意義が大きいといえる。
(五角形)

DIO目次に戻る DIOバックナンバー