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寄 稿
トラック運送事業における規制緩和の問題点と産業別最賃
運輸労連書記次長(労働政策部長) 高松 伸幸

■ トラック運輸産業の実態と規制緩和

 現在、トラック運輸産業には、61,040社・約116万人が従事しており、国内貨物輸送の90%を担い経済活動や国民生活を支える基幹産業である。

 しかし、各企業の経営基盤は脆弱であり、99%が中小零細企業で構成されている。

 一方、日本国内の物流量は、重厚長大型から軽薄短小型に変化するとともに、ジャストインタイム制(必要なときに必要な量を配送する)の進展、生産拠点の海外進出による国内空洞化などがあいまって、96年度の67億9900万トンをピークに05年度は55億5400万トンと約20%減少しており、現在も歯止めはかかっていない。
 労働条件を見てみると、中小企業が多いことから、労働協約を持っていない企業が多く、そのことが賃金・一時金・労働時間・退職金・福利厚生など全ての面で、他産業との格差の拡大につながっている。

 トラック運輸業の規制緩和は、90年12月1日に施行された「物流二法」がその始まりである。
 以降、各項目での緩和が推進され、運賃は許認可制から届け出制になり、最低保有台数の緩和や営業区域の廃止などが進められた。

 その結果、当初4万社程度であった事業者数は、この15年間で1.5倍の6万社を超える事態となり、減少しつつある物量を奪い合うというより一層厳しい過当競争が日々行われ、運賃ダンピング競争へと発展している。

 とりわけバブル崩壊以降は、荷主企業やお客様からの値引き要請が強まったことから、その矛先が労働条件に向けられ、賃金をはじめとする諸労働条件の低下だけにとどまらず、企業としての安全義務違反や労働基準法違反、さらには社会保険の未加入といった由々しき事態も見受けられる。

 また、今日の燃料費の高騰分を運賃・料金に転嫁できないことが、物流企業に更なる追い討ちをかけている。

 行過ぎた規制緩和は、経済的規制の緩和にとどまらず、守らなくてはならない社会的規制までも緩和するという錯覚に陥り、無秩序な業界になりつつある。

 しかし、道路という公共のインフラを職場にする物流業にとって、安全無視や法違反は許されることではない。


■ 社会的規制の強化に向けた取り組み

 運輸労連は、規制緩和(物流二法)への対応について、さまざまな角度から検討を重ねた結果、「今日的な状況の中で経済的規制の緩和は避けて通れない課題であるが、社会的規制については強化する中で、きちっとしたルール化を図るべきである」との基本を確認し、行政官庁や業界に対し輸送秩序の確立や罰則適用による遵法精神の確立など、具体的な対応を求めてきた。

 その結果、法整備をはじめ一定のルール化が図られたものの十分には機能しておらず、罰則も緩やかなことから現状の無秩序な業界体質となってしまった。
 規制緩和の先進国であるアメリカでは、経済規制はほぼ自由化される中で、法律やルールを守らない業者には厳しい罰則を適用しており、逆に優良企業にはインセンティブが働きいろいろな特典がつくなど、経済的規制と社会的規制がそれぞれを補完するシステムが確立されていると聞いている。

 日本においてもこのようなシステムができれば、業界の健全化が図られるのではないかと考えている。

 そのため、私たちは今「Gマーク」(グッドとグローリー)の取り組みを進めている。
 この制度は、一定の条件をクリアーした企業を事業所単位に安全性優良事業所として認定し、利用者がより良い事業者を選択しやすくすると同時に、業界自らが悪質な事業者を排除しようというものであり、これらを広く普及させることによって、少しでも業界の秩序の回復が図られればと考えている。


■ 産業別最低賃金の確立に向けた取り組み

 もうひとつ運輸労連として永年の懸案課題である、産業別最低賃金の確立に向けた取り組みがある。

 最低賃金制は、使用者が一方的に不当な低賃金を強制しないよう、「生活費保障」がその原点となっている。

 また、不当な賃金切り下げ競争(コスト削減競争)を防止することにより、企業間競争に一定の公正な競争条件を担保するものである。

 日本の産別最賃は、製造業を中心に確立されており、他の産業で確立されているのはわずかである。

 トラック運輸産業においても唯一高知県にあるだけで、経営側からの厳しい攻撃にさらされている。

 高知県の産別最賃を守り、他の都道府県にも拡大するため、重点県を設置するなど永年取り組みを進めてきた結果、昨年4つの都県(東京・秋田・山形・岩手)で新設の意向表明に踏み切り、秋田・山形・岩手において具体的審議に入ることができた。

 しかし、厚生労働省の最賃部会において、最低賃金制のあり方についての議論がされていることや現地の経営側の理解が得られない中で、労働側の努力の甲斐なくすでに「新設の必要なし」との判断が示された。

 現在の審議会は全会一致が原則であり、どれだけ労働側がその必要性を訴え申請要件を満たしていたとしても、経営側の理解が得られないと新設することができず、この審議のあり方についても改善すべきと考えている。

 例えば、現在行われている厚生労働省の最賃部会のように、労働者側と使用者側の意見が対立した場合には、公益委員からの試案が示され、それを基本に論議できるような新たな手法も検討すべきではないだろうか。

 私たちは、単に賃金を引き上げるために産別最賃の新設を求めているのではない。

 前述のGマークの取り組み同様、産別最賃の運動とその機能を活用することによって、不本意なコスト競争に歯止めをかけ、公正な企業間競争を行う中で、業界秩序の回復を図りたいと考えている。

 現状のまま推移していくとすれば運輸業界の未来は限りなく暗い。

 魅力ある産業への変貌を遂げるためには、経営側や各企業もコスト競争による目先の利益の追求だけでなく、業界の将来を見据えた英断を求めたい。



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