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理事長コラム
清水 秀行

「穀雨」に思う

File.22026年5月11日発行

二十四節季の立春から数えて6番目が「穀雨(こくう)」で、今年は4月20日だ。春雨が百穀を生むという意味の「雨生百穀(うりゅうひゃっこく)」が由来とされる。しっとりとした恵みの雨が多くの穀物を潤し、農作物の成長を促す時期で「百穀春雨(ひゃっこくしゅんう・ひゃっこくはるさめ)」という言葉もある。冬の閑散期が終わり、農家が本格的に田植えや種まきの準備を始める目安ともされる。確かに葉桜となった街中の沿道には赤、白、ピンクのツツジ(躑躅)が鮮やかに咲き、公園や庭園の休憩所や神社仏閣などでは紫の藤棚が映える季節となっている。

4月1日から、交通ルール、教育、子育て支援、税制、年金など幅広い分野で新制度やルールがスタートした。

16歳以上の自転車の交通違反に対して「青切符(交通反則通告制度)」が導入され、これまでは注意や指導で済んでいた違反に反則金が課されるようになった。ながらスマホ(手持ち運転)は12,000円、危険な歩道通行は6,000円、傘差し運転は5,000円の反則金だ。自転車は環境に優しく、健康にも良い、素晴らしい移動手段だが、一歩間違えれば凶器にもなり、人の命を奪うことにもなる。許しがたいことだが、警察官を装い「今払わないと捕まる」と取り締まりの名目で運転者にその場で現金を支払うよう求める詐欺が全国で起きている。「警察官が現場で反則金を回収することはない」など、ルールの厳格化による取り締まりだけでなく、ルールの周知や広報も大事だ。学校・地域での交通安全教育の充実と道路環境の整備・改善も必要だろう。自転車が走るべき場所として、路面に青い矢印を描く「矢羽根(自転車ナビマーク)」は、低コストで迅 速に整備できる事故減少に効果的な施策と言われている。先行実施した京都市では、2004年の2,815件と比較して2024年には636件と自転車事故が約8割減少したと報告されている。

昨年度の公立高校に続いて、私立高校向けの就学支援金が年約46万円に増額され、所得制限なく私立高校の授業料が実質無償となった。また、児童一人あたり月額5,200円公費で支援され、所得に関係なく公立小学校の給食費が実質無償化された。「子ども・子育て支援金制度」もスタートした。医療保険加入者全員が対象で、年収や世帯の状況によって異なるが、こども家庭庁の昨年末の試算では、2026年度は会社員・公務員は被保険者一人当たり平均で月約550円、自営業者などの国民健康保険対象者は世帯当たり平均で月約300円、75歳以上の後期高齢者医療制度対象者は被保険者一人当たり平均で月額200円の負担増が見込まれる。少子化対策の財源として広く薄く徴収される社会保険料の上乗せとして、国会審議でも相当議論となったが、独身・既婚にかかわらず、子どもを扶養していない全員に課される点から「独身税」と批判されている。給与天引きは5月から始まるが、徴収額の各年の推移と、児童手当の増額や「こども誰でも通園制度」など各種の支援策の効果などを引き続きしっかりと検証していくことが必要と考える。

働きながら年金を受け取る人の支給停止基準が、月額51万円から65万円に引き上げられることから「給料が高いと年金がカットされる」高齢就労者の受取額が増えることが想定される。また、「年収の壁」と言われる所得税の非課税ラインが段階的に引き上げられ、2026年分の所得からは年収178万円まで所得税がかからない仕組みとなる。2年間の時限措置ではあるものの、パートや非正規で働く人の手取りが増えることが想定される。また、今年の10月からは「106万円の壁(月収8.8万円以上の条件)」が撤廃され、週20時間以上働く人の多くが社会保険に入ることになる。将来の年金が増えるメリットがある一方で、手取り額に影響が出ることも想定される。与党が両院で過半数割れをしていた時の国会での活発な議論が思い出される。働き方改革・職場環境の改善として、従業員101人以上の会社に対して「男女の賃金の差」や「女性管理職 の割合」を公表することが義務付けられたことも、ジェンダー平等社会の実現に向けた一歩となる。

4月からスタートした教育・子育て支援や税制・年金の制度改正が、多くの国民の生活に穀雨=恵みの雨となるだろうか。食品の値上げなど止まらない物価高や原油高によるコスト増、各種の値上げ、品薄の懸念など、その影響は中長期に及ぶ可能性もある。私たちを取り巻く情勢は依然として厳しいが、前を見て着実に進んでいくしかないと思う。

連合総研 理事長 清水 秀行

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