HP DIO目次に戻る DIOバックナンバー 

視点


職場での組合員対話を目標に据えた
米国労働組合の政治・選挙活動

No214 2007年3月
 昨12月、連合は米国、英国、ドイツ,スウェーデン4カ国に労働組合政治調査団を派遣した。筆者も一員として米国、英国調査に参加した。この調査では、両国の労働組合が共通してローカル支部(企業別組合)で組合員対話を行うことを重点目標に据えた政治・選挙・政策実現活動に取り組んでいる姿が強く印象に残った。

 米国および英国の労働組合は、この四半世紀には労働組合員数が大幅減少し、組織率は約半減している(米国:1979年組合員数2,099万人・組織率24.1%→2006年1,536万人12.0%。英国:1979年組合員数1,329万人組織率57.4%→2002年780万人30.0%)。そのため米国では1990年代後半から、英国では90年代末からナショナルセンターが組織化オルグを育成するなど組織化活動に大きな努力をはらってきた。しかし製造業衰退等で組合員減が大きく、2000年代に入っても両国の労働組合員数はともに低迷している。

 この組合員減のなかで、米国では90年代後半からAFL・CIOを中心に、英国では2001年選挙から主要産別組合が中心に、労働組合は大規模、組織的な国政選挙活動に取り組んでいる。その活動は、争点を明示するなかで選挙候補者を組合員参加の中で推薦し、組合員に選挙ボランティアへの参加を求め、組合員・家族に投票を求めるもので、その活動資金は組合員が毎年拠出した政治基金によりまかなわれている。

 米国の2006年中間選挙では、AFL・CIOは4000万ドル、AFSCME(アメリカ自治労)は3500万ドルの巨額資金を支出している。また、連邦選挙管理委員会の資料によるとAFL・CIOを脱退し「Change to Win」(以下CTWと略記)を結成したSEIU(国際サービス労組)は、AFSCMEを上回る政治基金を投じている。この連邦選挙では、地域レベルではCTW傘下のローカル支部も参加、協力し合って民主党支援の選挙活動を行っている。組合が集めた有権者登録数は、AFL・CIO傘下組織計で1300万人、CTWは230万戸の訪問を実現したと発表している。

 米国の労働運動がこのような大規模な選挙活動を行っている目的はなんであろうか。その一つはブッシュ共和党大統領のイラク戦争の強行や反労働組合主義、貧富2極化を進める共和党の政策の転換を図ることがある。第2には、最低賃金引き上げや労働組合結成の権利確立などの法案を議会で成立させるためにこれを進める民主党議員の当選をはかることがある。それと同時に、この政治・選挙活動により労働組合運動の再強化を図ることも目的となっていることを指摘できる。それは全ローカル支部で組合員対話を実施すること、ローカル支部での政治活動の実践を意識的に取り組んでいること、組合員のボランティア参加など参加型の運動スタイルが目指されていることに伺える。

 全ローカル職場で組合員対話を実現するとの方針は、AFL・CIOの新中長期政治方針に掲げられている。2012年には大統領再選、上院、下院、および州知事・州議会数で民主党が多数派を占めることが基本目標とされているが、同時に2008年選挙以降には「パーマネント・ローカル・モビライゼィション」目標が掲げられ、全てのローカル支部が恒常的に組合員対組合員の対話を行うとしている。既に今回の選挙でこの目標が実践に移されている。USWは全ローカル支部に組合員数3%相当の政治活動担当者(若い協力者)を設置し、職場組合員との日常的協議を行うように取り組んでいる。UFCWでは全てのローカル支部に政治代表者を設置し、政治担当者は他のローカル支部の担当者と協議し、ローカルな政策課題に取り組むとしている。またAFSCMEは今回の選挙で全組合員40%を対象に政治活動基本研修(4〜8時間)を実施している。

 米国労働組合の政治選挙活動でのもう一つの特徴は、政策実現の取組みと結合していることである。選挙活動で取り上げられた争点は、労働組合の積極的なロビーイング活動(各組織は10人以上のスタッフの議会対策局を常設)を背景にして、選挙後即座に法制化・政策具体化が追求されている。中間選挙翌日の11月8日には、主要全国組織は民主党の勝利は組合員の努力であると指摘するとともに、最低賃金の7.25ドルへの引き上げ、メデイケアーの改善、労働組合権保障の「従業員自由選択法」制定などを議会はすみやかに決定・実行すべしとの声明を発し、ローカル支部には要請行動を呼びかけている。これらを受けて最低賃金7.25ドルへの引き上げ法案が上程され、1月10日連邦下院、2月1日連邦上院で可決され、両法案を調整した法案が大統領署名に送られる段階にある。また「従業員自由選択法」が2月6日に上程され、公聴会が開始されている。

 そして英国の労働運動は、上記のような米国労働組合の選挙戦略を学び、意識的に導入してきている。英国では主要産業別組織が労働党に参加し選挙活動を行っている。第3期ブレア政権成立の2005年国政選挙においては、これら労働組合が企業レベル組合支部に争点政策を示し、組合員のボランティア参加を組織し、労働党候補者に投票を呼びかける米国型選挙活動を取り入れて実践している。

 英国のナショナルセンターTUCは、その傘下には労働党参加組織と非参加組織がともに加入していることから、選挙活動は行なっていない。しかし政策問題では、TUCは労働党政府・主要閣僚と年数回以上の定期会合を持ち、政府との協議の拡大に努めてきている。英国ではTUCが政府と政策協議し、主要産業別組織が労働党と政策協議するとの分担関係がある。そして政策要求ではその実現度が低いという問題に直面している。幾つかのEU指令の英国導入ではTUCの活動が実を結んでいるが、労働組合が要求しているその他の政策は、ブレア政権の労働組合と距離をとる方針により後に回されている。

 米国および英国の労働運動は、以上のように職場の組合員参加を目標に据えた活動におおきな努力を注いでいる。この背景には組織率の低下を阻止するために、組合員参加の労働組合運動が欠かせないとの危機感が強く意識されていると言えよう。この多大な労力が注がれている米英労働組合の政治活動から、わが国の労働組合が学ぶべきものは多い。
(三沢川)


DIO目次に戻る DIOバックナンバー