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続・子ども・子育て支援財源としての「支援金」制度の課題

連合総研事務局長 平川則男2024年1月24日発行

連合総研レポートDIO・2023年12月号では、「子ども・子育て支援財源としての『支援金』制度の課題」[i]と題して、「財源」に絞って課題を論じた。現在、政府においては法案作業を進めており、いよいよ、今月から始まる通常国会で審議されることとなる。そこで、本稿では、国会において更に議論すべき課題について簡単に整理をしていきたい。

再度、子ども子育てを社会で支える理念の再確認を

 これまで、子ども子育て支援については、長く、「私的」なこととし、公的な支援については否定的な政策が強かった。こうしたことから、財政的な制約や男女の役割分担意識が政治の中で強く、結局、有効な支援を打ち出せないまま、1.57ショックを迎え、その後も安定財源が確保できないまま、結局は、保育基準の規制緩和などが進むこととなった[ii]

 しかし、政府が20231222日に閣議決定した「こども未来戦略」にも記載があるように、「社会保障と税の一体改革」はそれまでの流れを大きく変えてきた。そして、社会保障改革国民会議報告書では、「すべての子どもの成長を温かく見守り、支えることができる社会の構築」[iii]を明言し、社会保障四経費の一つとして消費税増税の一部を活用し、子ども子育て支援制度を創設した。

 この制度は、消費税という安定財源の確保とともに、これまで市区町村の措置的な仕組みであった保育制度を、幼児教育・保育の利用に対する「権利性」を高めるものとし、それによって認定こども園・保育所の整備が推進され、保育所利用率を急速に高めてきた。

 こうしたことから、「新たな財源」としての支援金の意義は、子ども子育てを社会で育てるという理念とリンクしていることを再確認し、明確にしいく必要がある。支援金制度は、「次善の策」とは言え、子ども子育て支援の10年間の空白期間[iv]を経て、ようやく、安定財源確保の議論となる機会を逃すことはできないと考える。

こども金庫について

 こども未来戦略方針をみると、新たな特別会計(こども金庫)を創設するとしている。この「こども金庫」の財源は、既存の特別会計である「年金特別会計子ども子育て支援勘定」と「労働保険特別会計雇用勘定(育児休業給付)」に加え、「支援金」を経理するとしている。つまり、税財源、労働保険財源、支援金財源(被保険者負担、事業主負担)と、財源が混在している金庫を経理していくこととなる。

 更に言うと、「年金特別会計子ども・子育て支援勘定」の中には、事業主が拠出する「子ども・子育て拠出金」も含まれている。このようなことから、「金庫」に入る財源は、財政民主主義の観点から、その使途に関する牽制機能をどう構築していくかが課題となってくる[v]

 例えば、育児休業給付は、労働保険の仕組みの(ILOの三者構成原則)に基づいて牽制機能をつくる必要があり、医療保険料の徴収の実務の中で行われる「支援金」については、被保険者、事業主、地方自治体の関係者が構成員となる牽制機能を持つことが必要である。

 また、県・政令指定都市レベルの地方自治体の子ども子育て会議についても、被保険者代表であり労働者の代表を必ず入れるよう、法定化することが求められる。

金庫に入った財源の使途について

 続いて財源と給付の紐づけである。「金庫」とは言うものの、前述したように、その財源の根拠に違いがあることから、給付・事業についても、財源の性格に応じて使途が検討されるべきである。

 例えば、「労働保険特別会計雇用勘定(育児休業給付)」については、当然、使途が限定され、保育所運営費や児童手当などへの活用は不可能と考えるべきであろう。

 一方、年金特別会計子ども子育て支援勘定については、これまでも、児童手当や放課後児童クラブなどの地域子ども・子育て支援事業、企業主導型保育事業に活用されてきた。これに加えて「支援金」の使途について、同様に考えてよいのかは疑問がある。

 当然、給付である児童手当(現金給付)や子ども子育て支援給付(現物給付)に活用されることが考えられるものの、地域子ども・子育て支援事業については、一考の余地があると思われる。それは、「保険料財源を義務的な支出の費用に使う場合、それは給付として構成するのが原則」とする考え方の存在である[vi]

 事業である限りは、被保険者側の権利に基づかない、事業実施主体(例えば市区町村)の判断に基づくものになってしまう可能性がある。このことから原則を徹底すべきかどうかは議論がありつつも、事業の給付化を検討すべきではないか。

 例えば、放課後児童クラブについては事業とされているが、保育所などの施設の近い運営実態となっており、その機能の強化も求められていることから、施設型給付として利用者の権利性を高めることも検討できるのでないか。

給付面で解決すべきこと

 次に給付面で解決が必要なのは、同じ施設型給付でも、施設類型によって行政の関与が分かれている問題である。当初、子ども子育て支援制度の議論の過程においては、幼稚園、保育所を「こども園」「総合こども園」として類型を一本化する議論もあったが、社会保障と税の一体改革の三党合意の中で、修正がされてきた経過があり、その結果、同じ幼児教育・保育の施設類型に対する行政の関与や利用申し込みの方法に違いが存在する。

 例えば、民間保育所は、依然として施設型給付の対象外であり、市区町村は「委託費」として費用を払っている[vii]。また、利用申し込み方法についても、1号認定の場合は幼稚園等に直接申し込み、それ以外の保育所等を利用する2号・3号認定は市区町村に申し込むなどの違いがある。更には、監査についても、保育所や幼稚園などの間で、監査の考え方や監査実績眞の公表など違いがある[viii]

 これまでは税を基本的な財源としてきた施設型給付だが、徴収方法が医療保険の仕組みを活用する支援金財源も使うとなると、被保険者などからの民主的統制が求められるともに、「給付」という被保険者の権利性が強化された形で制度の改革が求められる。

 なお、加速化プランの一環として、総務省においては、2024年度地方財政対策として、こども・子育て政策に係る地方単独事業(ソウト)を確保するとともに、普通交付税の新たな費目として、社会福祉費、衛生費、その他の教育費の中からこども・子育て政策に係る部分を統合し、普通交付税の基準財政需要額に新たな算定費目「こども子育て費」を創設するとしている。この新たな費目の創設は、継続性の観点から問題はありつつも、子ども子育てに係る財源をわかりやすくしたという点では評価できる面もあり、今後、その考え方が政策全体に広がるか注目がされる。

今後、支援金を大きく育てるのか、限定的に運用するのか

 加速化プランには、幼児教育・保育の質の向上など、重要な実施項目が多くあり、確実に実行されることが求められる。しかしながら、財源確保に向けた歳出改革の徹底は可能なのかどうか、未だに判然としない。徹底できなければ、結局は、赤字国債に頼るのではないかという懸念がつきまとうことは、既に、連合総研レポートDIOで指摘をしたところである。

 更に不透明なのは、支援金の今後のあり方である。筆者は、次善の策としての「支援金」制度と評してはいるが、例えば、こども未来戦略によると、財源は「徹底した歳出改革等を行い、それによって得られる公費節減の効果及び社会負担軽減の効果を生じさせ、その範囲内で支援金制度を構築することにより、実質的な負担が生じないこととする」と明記されている。この考え方の範囲では、支援金制度は、大きく拡大するのではなく、限定的な運用とも読み取れる。

 しかし、202312月に入り、財源について「徹底した歳出改革等によって確保することを原則といたします。国・地方の社会保障関係の既定予算について執行の精査等を通じて最大限の活用等を行うほか、改革工程に沿って、全世代型の社会保障制度を構築する観点から、2028年度までに徹底した歳出改革等を行い、それによって得られる公費節減の効果と社会保険負担軽減の効果を活用いたします。歳出改革と賃上げによって実質的な社会保険負担軽減の効果を生じさせ、その範囲内で支援金制度を構築することにより、実質的な負担が生じないことといたします」[ix]と、賃上げ効果による負担軽減の効果の文言が加えられている。

 この発言は、支援金制度を社会保障制度の効率化の枠内という「限定的」な運用に止まらない可能性を示唆しているのではないか。今後、子ども子育て支援だけではなく、医療・介護、地域共生社会など、社会保障制度が「社会全体で支える」ための仕組を機能させるため、「ポスト・社会保障と税の一体改革」の本格的な議論を推進することが強く求められる[x][xi]

参考文献

[i] 「子ども・子育て支援財源としての『支援金』制度の課題」 平川則男 連合総研レポートDIO 202311.12月号

https://www.jstage.jst.go.jp/article/rengosokendio/36/11.12/36_24/_pdf/-char/ja

[ii]詳細については、「子ども子育ての社会化をめぐる議論の変遷 こども家庭庁設置法案と安定財源」平川則男 自治総研通巻522 2022年4月号を参照

[iii] 社会保障制度改革国民会議報告書 2013年年8月 社会保障制度改革国民会議

[iv] なお、2017年に、幼児教育・保育の無償化が行われたが、社会保障と税の一体改革で創出した財政再建の財源を十分な議論なく拝借したものである。また、幼児教育・保育の無償化は、一部、効果があったとの調査もあるが 、保育所等利用率を見ても、大きな変化は見られない。

[v] 本来、税財源であれば財源を一本化し、政府の責任と国会における牽制機能の中で、財源は自由に使えるが、「支援金」という社会保険の徴収の仕組みにおいては、財源と給付の流れは、財政民主主義の観点から明確にすることが求められると考える。

[vi] 「社会保障改革の立法政策的批判」 堤修三 200712月 社会保険研究所

[vii] 子ども子育て支援法附則第6

[viii] 「幼稚園・保育所を可視化する」 平川則男 連合総研レポートDIO 202112

https://www.rengo-soken.or.jp/dio/dio371-6.pdf

[ix] こども未来戦略会議 20231211日 総理発言 2024123日参照https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202312/11kodomo.html

[x] 「分配政策と財政」 香取照幸 連合総研レポートDIO 20222

https://www.rengo-soken.or.jp/dio/dio373-3.pdf

[xi] 「ポスト社会保障と税の一体改革−2040年に向けた課題」連合総研レポートDIO20206月号

https://www.rengo-soken.or.jp/dio/dio358.pdf

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