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視点


消費の伸びは本格化するか

No216 2007年5月
 
 進学や就職等で引越したり、一人暮らしを始めたりすることに伴い、家具や寝具をはじめとした生活必需品の需要が増えるが、これを“移動マーケット”というそうだ。確かに、4月は、年度替りに伴う消費が増える(毎年起こることだから、前年比でみると平準化されることになろうが)。我が家でも上の子が中学生になった。地元の公立中だが、それでも制服や通学カバン、体操服に体育館用の靴、といった学校指定のものに加えて、大型小売店で身の回りのものをひと通り揃えると、かなりの金額になってしまった。ミクロレベルで見れば、このように消費額が増加した世帯もあるだろうが、マクロで見た場合はどうだろうか。

 景気が回復過程に入ってまる5年を経過し、誰もが個人消費の動向に注目している。景気回復(拡大)局面が続くかどうかは消費の伸び次第というわけである。家計調査ベースで消費をみると、2007年に入ってからは前年比でプラスとなっている。しかし、2006年は賃金の伸びが弱いことに裏打ちされるかのように、消費の伸びも弱く、実質でマイナスであった。平均消費性向(消費支出/可処分所得)はこの数年上昇してきたが、2006年には低下し、2001年と同水準になった。これは分母の可処分所得が増加したというよりも、分子の消費支出が減少したことによる。定期所得が伸び悩むなか、消費水準を落としたと見ることもできよう。すなわち、支出しなければいけない必要なもの以外は極力節約する、ということである。上の例で言えば、購入するのは子供の進学に伴って必要な品物だけで、他の物は買わなかったり、外食を1回やめたりする、ということである。

 消費経路が多様化していることもあって、消費の動向を見極めることは大変難しい。インターネットの普及等により、消費者の財やサービスの購入経路は一層多様化している。例えば、我が家でも、食料品や日用品は専ら宅配で購入し、また書籍も、大書店でしか売られていないようないわゆる専門書の類はインターネット書店で購入し自宅の玄関まで運んでもらうことが多い。書店内で本を求めてフロアを上がり下がりする必要もない。また、食料品や日用品の場合、購入予定の品物をあらかじめ決めてその売場へ直行したとしても、店内を端から端まで歩き回るのは時間もかかる。

 サービス消費は増加傾向にある。少子高齢化の進行や、女性の社会進出がさらに進んでいることを考えれば、今後のサービスへの支出は増えることはあっても減ることはないだろう。家事や育児でも外部サービスの利用は増加していく。上の例では、買った本や日用品を自宅まで“運んでもらう”というサービスを同時に購入していることになる。

 ところで、消費が伸びるのは所得の裏づけがあってこそであるが、その所得が伸び悩んでいる。雇用環境がかなり改善し、企業の人手不足感も一層強くなっているのに、賃金改善は思わしくない。厚生労働省の「毎月勤労統計調査」で現金給与総額をみると、昨年後半から前年比横ばいで推移しており、今年に入ってからはとうとう前年比マイナスになってしまった。所定内給与は、すでに昨年から前年比マイナスとなっている。

 グローバル経済の下では、国際競争力維持のために、経営側としては、固定費増となりうる所定内給与の引上げに対して消極的である可能性がある。確かに、好調な企業収益の配分が、一時金の形で行われていたことは統計からも確認できる。2006年第2四半期と第4四半期の製造業の所定内給与指数はそれぞれ0.4%、0.1%の伸びにとどまっていた(定期給与指数では、それぞれ0.7%、0.5%)が、一時金を含む現金給与総額指数で見れば、それぞれ前年比1.85%、1.6%の伸びであった。

 最近の企業行動において、配当としての利益配分が増加していることから、家計の配当所得に期待する論調もあるが、どうだろうか。家計部門が受取った配当額は2004年度から2005年度にかけて、マクロでみると増えている。しかし、勤労者世帯では株式の保有高は少なく(家計調査の貯蓄・負債編で2005年の株式・株式投資信託の貯蓄に占める割合をみるとわずか5.6%)、勤労者世帯は配当の恩恵をそれほど多く受けているわけではない。さらに、勤労者世帯のなかでも株式を多く保有しているのはいわゆる高所得の世帯である。

 こう考えてくると、一般的なサラリーマンの本格的な消費持続には、やはり定期的な所得の改善が必要、ということになる。所得の改善が恒常的なものであると認識されてはじめて、消費の拡大、そしてその持続につながっていくものと考えられる。

 春闘の結果がどう現れてくるか、また、春以降の消費動向が統計として現れてくるには少し時間がかかる。今後の動向から目が離せない。(恵)


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