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寄 稿
パート労働者の厚生年金適用問題
成蹊大学経済学部准教授 丸山 桂

 2006年の合計特殊出生率は1.32となり、6年ぶりに前年より回復した。今後の回復動向はいまだ不透明で、少子化と社会保障の問題が深刻であるのはかわりがない。

 むしろ、少子化の回復基調以上に、高齢者人口の伸びは著しい。内閣府『平成19年高齢社会白書』によれば、高齢化率が40%を超える2055年には、現役世代(15?64歳)1.3人で1人の高齢者(65歳以上)を支える時代に突入する。

 賦課方式で運営される公的年金制度にとって、少子高齢化によって保険料負担が上昇すれば、費用負担をめぐる問題はいっそう顕著になる。公的年金の実際の支え手という視点でみると、国民年金の保険料負担が原則20?60歳であることや、第3号被保険者制度や免除規定や未納問題を考慮すると、2055年には1.3人よりさらに低い数値になる可能性がきわめて高い。公的年金の費用負担問題を解決する鍵の1つが、高齢者や女性など公的年金の支え手を増やし、1人あたりの保険料負担を軽減する方策である。2014年にはいわゆる「団塊の世代」が65歳を迎え、日本の高齢化率は26%に達する。2009年年金改革は、「団塊の世代」の引退前に費用負担問題の決着をつける最後のチャンスとなろう。

 パート労働者の厚生年金適用問題は、2004年年金改革で残された最大の課題であった。当時は、事業主側の社会保険料負担に対する反発が強く、5年後に再検討されることとなった。政府はパート労働者の厚生年金適用について、具体案を提示したが、適用対象者は当初案よりも大幅に絞り込まれることとなった。

 短時間労働者の厚生年金の適用基準は、昭和55年6月6日の各都道府県保険課(部)あて内かんで、「通常の就労者の所定労働時間、所定労働日数のおおむね4分の3以上」としていることから、労働時間・労働日数が通常の就労者のおおむね4分の3以上であれば、第2号被保険者となり、それに満たない場合であれば、配偶者が第2号被保険者でかつ年間収入が130万円未満であれば、第3号被保険者として保険料負担が求められないということになっていた。当初の案では、この4分の3基準(正社員の4分の3、週30時間以上の労働時間で加入)を、2分の1基準(正社員の2分の1、週20時間以上)に引き下げるとする案であったが、保険料負担に対する反発は強く、厚生労働省は、次の@からDのすべての条件を満たす正社員と遜色ない者だけを適用対象とし、徐々に対象者を広げていく案を提示した。
@労働時間週20時間以上
A勤続1年以上
B月収が厚生年金の下限の98,000円以上(正社員に対して厚生年金保険料を課す場合の月収の下限)
C正社員と同等の管理業務に携わる
D従業員300人超の企業
というものである。この条件のもとでは、対象者は16万人程度となり、短時間労働者総数を約1200万人とすると、2%にも満たない程度となった。

 私たちの研究会(就業形態の多様化に対応する年金制度に関する研究(厚生労働科学研究費補助金))は、2006年9月にパート・アルバイトなどの非典型労働者に対し、保険料負担と老後の年金額を示した上で、厚生年金の適用拡大に対する賛否および適用拡大後の労働時間の調整についてアンケート調査を行った。その結果、厚生年金の適用拡大については、現在の保険料より負担が軽くなる第1号被保険者は56%が賛成で、反対は11%であった。純粋に保険料負担が増加する第3号被保険者は、賛成は34%、反対は35.2%、よくわからないが41.4%、その他が4.2%であり、賛否はほぼ拮抗する結果となった。第3号被保険者にとっては、老後の年金額が増加するメリットもあるため、ただちに加入に反対するわけではないことが分かった。また、適用拡大後の労働時間についても、「労働時間を今より減らす」とした第3号被保険者は、わずか8.8%で、「増やす」が26.1%、「変えるつもりはない」が34.8%で、新たな就業調整の可能性はあまり高くはないという結果になった。

 パート労働者への厚生年金適用拡大の前に解決しなければならない問題が、資格がある者への厚生年金の適用遵守である。ほぼ対象者が重複するといわれている雇用保険と厚生年金の適用事業所数には乖離があり、厚生年金の事業主負担を逃れるために、事業所単位で未適用になる問題は以前から指摘されていた。図1は、先述の調査による、非典型労働者のうち、厚生年金の適用資格がある者の被用者保険の適用率を従業員規模別に比較したものである。適用率は平均40%程度で、従業員規模と比例しており、従業員数5人未満の事業所では年金保険の適用率はわずか6.3%にすぎなかった。こうした厚生年金に適用除外になった労働者は、結局国民年金に加入することになるが、そのうちかなりの割合が、保険料を「未納」しているという状況であった。また、厚生年金の適用者と非適用者の時給額には、有意に差があり、被用者保険に加入できない非典型労働者は、賃金と社会保険の二重の意味で不利益を受けていることが明らかになった。

 景気回復の影響を受け、労働市場は人手不足感が高まりつつある。長期的に見れば、老後の所得保障を整備した職場は、有能な労働者を確保できるはずである。また、昨今、企業のコンプライアンス(法令遵守)に対する社会の目は厳しくなっており、法改正の前に、社会保険の法令遵守の徹底を急がねばならない。



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