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寄 稿
「ねじれ」に打開策はないのか

読売新聞東京本社編集局次長 小田 尚

与野党逆転の成果?

 ガソリン税の暫定税率の期限切れが翌日に迫った3月31日。連合静岡の会合に出席した民主党の小沢代表は、こう語った。

 「野党が参院で過半数を取ったことによって、今まで国民の皆さんができっこないと思っていたことが出来る、という現実を理解していただくことが、直接的な金目の話もそうだが、一番大きいことではないか」

 07年7月の参院選で与野党逆転が実現したことをどう国民にアピールするか。小沢氏はそこに腐心しているのだろう。テロ対策特別措置法に基づいてインド洋に派遣した海上自衛隊を11月の期限切れに伴い、日本に1度戻したのと同じ手法を採ったといえる。

 4月1日からガソリン税が1リットル当たり25・1円値下げされ、全国のガソリンスタンドでは前日比でレギュラーが1リットル平均10・7円の値下がりとなった。初日は安いガソリンを求めて車が行列を作り、赤字覚悟のスタンドも少なくなかったが、給油の現場はすぐに落ち着きを取り戻した。

 小沢氏は3日、連合千葉の会合でも「大混乱になると政府は言ったが、ガソリンが下がるだけだ。混乱しているのは政府・与党の方だ」と意気軒高だった。民主党は「小さな政局」で勝利感を味わったのかもしれない。


失われる政治への信頼

 「衆参ねじれ国会」になって9か月。見えてきたのは、物事だけでなく合意に至るルールさえも決められない政治の体たらくだ。

 失われつつあるのは日銀総裁が一時空席となった日本経済の国際的信用だけではない。ガソリン税の暫定税率をめぐるあっせんを反古にされた衆参両院議長の権威。そして、政治への信頼である。福田内閣の支持率低下に歯止めがかからないのは、その証左だろう。

 政治は、なぜ迷走しているのか。構造や仕組みも、その要因の大半を占める。

 日本の参院の権限は、世界の上院に例を見ないほど強い。憲法上、衆院の優越は、首相指名、予算、条約くらいしかない。普通の法案は処理するにも衆参「対等」だ。政府・与党から見れば、民主党の首脳陣が首を縦に振らない法案は、衆院で3分の2の賛成で再議決しない限り成立しない。日銀総裁などの国会同意人事は、衆院での再議決規定がなく、参院で否決されれば、即「白紙」になる。


移行した権力の在りか

 政策は、外交など一部を除けば、法律に裏打ちされて初めて実行に移せるものがほとんどだ。先の参院選前なら、自民、公明両党と霞が関が合意・結託すれば、その政策を迅速に実行することが可能だった。だが、参院選後は権力構造が一変し、与野党協議の場が政策調整や政策の実施時期を決定することになった。権力のかなりの部分が政府・与党から与野党協議の場へと移ったのである。

 憲法は、衆参両院の意志が異なる事態を想定したからこそ、「両院協議会」などという条項も用意したが、実際の運用は現場に任せられている。個別のテーマごとに与野党調整を幾度か経て初めて一定のルールが出来上がることになる。これには落とし穴もある。07年秋の臨時国会で与野党合意で成立した法律は、財政規律を軽視した「ばらまき」型の政策を裏打ちするものがほとんどだった。

 与野党協議には、いくつかの段階がある。低いレベルで言えば、衆参両院委員会での与野党理事による折衝だ。時に与野党の国会対策委員長と相談する。中程度のレベルには、「部分連合」とされる政策ごとの与野党協議がある。例えば、数年前の年金協議のように与野党の政策担当者が話し合う。高いレベルでは、党首会談があり、最高位には、政府を共有する「連立」や「大連立」がある。

 内閣や官僚の役割は、その与野党協議の場に戦略と知恵を注入することになる。福田首相が3月27日に記者会見し、道路特定財源を09年度から一般財源化するなどと新たに提案したのも、財務官僚の影がちらつく。


「大連立」騒動の後遺症

 構造上の要因に人的要因が重なると、政治の迷走に拍車がかかる。

 07年11月、福田首相と小沢代表との会談で唐突に出てきた「大連立」構想も、段階を踏んで行けば、受け入れられただろう。だが、「大連立」騒動は、小沢氏の政治手法に党内外の批判が集まり、その後の小沢氏の政治行動を縛った。それどころか、その反動で小沢氏は首相の電話に出なくなり、党首会談での決着も困難になっている。与野党協議のルール作りの「接点」も消えつつある。

 転機は、1月末、与党が4月の「混乱」回避のために暫定税率の期間を2か月延長する「つなぎ法案」を提出したことだ。衆参議長のあっせんで、08年度予算案、関連税制法案に「年度内に一定の結論を得る」ことでつなぎ法案を取り下げたが、与党にとって、この成功体験が裏目に出た。自民党の伊吹幹事長は、強く出れば、民主党は折れると思い込み、国会運営が荒っぽくなった。2月末に予算案の衆院通過を強行し、野党から「武藤日銀総裁」案などを否決され、税制関連法案の参院審議入りは4月4日に引き延ばされた。

 小沢氏は、政局優先の対決姿勢、倒閣路線に転じた。この背景には、小沢氏が党内を掌握しきれず、大局的見地に立った決断ができないという複雑な事情もある。

 次期衆院選で民主党が勝てば、「ねじれ国会」は解消する。一方、与党が次期衆院選で過半数を得て勝ったが、3分の2の議席を得られないことは十分あり得る。衆参同日選でない限り、衆参ねじれは2大政党による政権交代への1つのプロセスにほかならない。

 政府・与党は、4月末にも税制関連法案を衆院で再可決し、ガソリン税を元に引き上げる方針だ。民主党はこれを牽制するが、政権交代時代をにらんだ与野党の新ルール作りに向けた「出口」は見つかっていない。



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