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視点


資源価格インフレには、
実質賃金を改善して経済体質の改善を

No228 2008年6月

 日本の消費者物価は2008年春から1%台の上昇率基調に変わった。1998年度以降2005年度まで連続7年マイナスの伸びであったが、昨2007年度にはプラス0.4%増、そして2008年3月には1.2%(前年同月比)となり、日銀は2008年度、2009年度ともに消費者物価(除く生鮮食品)は1%程度の上昇になると見通している(日銀「経済・物価情勢の展望」 4月30日発表)。

 一方、賃金の伸びは相変わらず低迷している。昨2007年度の賃金(規模5人以上の現金給与総額、毎月勤労統計)は、名目では前年度比0.3%減、実質賃金では0.6%減であった。この春の賃上げ妥結率が前年度比0.03%増(連合集計)にとどまっているから、2008年度の名目賃金、実質賃金の伸び率はマイナスの減少幅をさらに拡大すると推測される。日本の労働者は、1997年度からの12年間のうち10年間で実質賃金を減少させてきた(07年度の実質賃金水準は96年度の9%減)。そしてこの2008年度には再び実質賃金が1%以上も減少する厳しい労働・生活環境に立ち至っている。この消費者物価1%上昇分を労働者・生活者に負担させる現在の事態は、消費低迷の日本の経済社会体質をさらに歪め、資源問題など世界経済への対応力を喪失させる結果を生みかねず、早急に改める必要がある。


<ドル安と構造的な需要増による資源価格インフレの発生>

 最近の日本の消費者物価の上昇には、国際石油価格の上昇を受けた電力料金、ガソリン等エネルギー料金の引上げ、および世界の穀物価格高を反映した食料品価格の上昇が大きく影響している。原油、穀物、金属原料などの海外一次産品は、2004年ごろから米国を中心とした先進国経済の景気拡大による需要増に加え、中国、インド、ロシアなど新興国がエネルギーや穀物の需要を急増させ、この影響により価格が上昇基調に転じた。2007年秋からは、石油、小麦などの国際一次産品の価格上昇テンポが速まり、過去最高価格を更新し続けている。この価格水準の高まりは、需要要因のみでなく、石油開発や探索の条件の悪化、穀物では天候異常の長期化やバイオエタノールやバイオディーゼル油への転用などの供給側の構造的要因が影響している。また金融不安、ドル安からこれら一次産品市場にドル資金が投機的に流入していることも作用している。

 日本の消費者物価は、これら価格上昇の影響により従来見通しから上振れの状況に転化した。そして、この春からここ数年間においては消費者物価上昇率は最低でも1%程度上昇する経済環境に入ったと見込まれる。


<経済体質の改善には、実質賃金のプラス増が必要不可欠>

 この物価上昇は実質賃金の低下を招いている。既に2007年度の賃金は、名目、実質共に減少しており、この2008年度にはその減少幅が1%以上に拡大する見通しにある。日本政府は「今後は企業部門から家計部門への(所得)波及が回復することで、景気回復の実感が高まることが望まれる」(内閣府「平成19年度 経済財政白書」)と主張している。しかし、経済界は世界経済の先行き減速や資源価格上昇によるコスト負担増などを理由に、この春の賃上げ交渉では定期昇給分を含めて1.93%増、前年比0.03%ポイント増の低額の賃上げ回答(連合賃上げ集計、4月22日)に固執している。この低い賃上げ率では、年齢構成等を考慮すれば2008年の現金給与総額(年収)は名目、実質共にマイナス幅が増大すると推計される。

 消費者物価の上昇分を労働者・消費者に転嫁するこの春の企業経営者の賃上げ回答は、日本の経済産業体質をさらに悪化させる結果を招く。マクロ的には、物価上昇を補填しない低賃上げは消費需要を落ち込ませ国内需要縮小の悪循環を生み出す。企業の経営面では、超短期的には労働コスト削減で資源価格増を補って企業収益の減少幅を弱めるが、それは逆に国内需要減や労働意欲の減少による悪作用を生み出し、中長期的には国際資源市場への対策の遅れを招来させ、その結果、企業の国際競争力はむしろ低下することとなろう。

 経済社会の維持・発展には、労働者の生活改善の意欲が大きな推進力になっている。実質賃金の改善は労働者の意欲を高めて企業体力を強化し、マクロ的な需要と雇用を創出し、また地球資源問題に対する家計の対応力を生み出す。欧米の労働組合は、この間一貫してインフレ率と生産性上昇の加算分を賃上げ要求ガイドラインとして賃上げ要求を行い、EUのほとんどの国は2000年から2006年にかけてインフレ率プラスアルファーの賃上げ率を獲得している(EIRO:賃金展開2006)。米国でも、1998年以降2007年の間には03年?05年間を例外にその他の年では実質賃金はプラスの伸びとなっている(BLS統計、週賃金)。日本のように10年前後も実質賃金マイナスの国は欧米では見当たらない。

 日本の労働者と労働組合は、自らの生活の維持・改善のために、そして次の世代に持続可能な社会を引き継ぐために、また世界の働く人々と連帯するために、実質賃金の維持・改善となる賃上げを要求し獲得することが肝要である。 (三沢川)


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