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前理事長コラム
『時代を見つめる』
古賀 伸明

「衝撃・米国連邦議会占拠」

File.612021年1月15日発行

依然としてコロナ禍が世界で猛威をふるっている。
日本では年末年始に感染者が大幅に増加し、主要都市を中心に緊急事態宣言が再発令された。

一方、米国時間の1月6日、ジョー・バイデン次期大統領を承認し正式に確定させようとした連邦議会に、ドナルド・トランプ大統領の支持者がなだれ込み、警官も含め5人の死者がでるという惨事となった。多数の暴徒が乱入し議会を一時占拠した有り様は、世界に発信され米国内外に衝撃を与えた。

第二次世界大戦後のパクス・アメリカーナ、冷戦構造終焉後は民主主義国の範として世界秩序をリードしていった国の出来事とは思えない光景だ。

この4年間、国際秩序や立憲政治を損なったトランプ氏は、昨年の大統領選挙の敗北を受け入れず、当日も「選挙が盗まれた」「議事堂に行こう」と支持者たちの怒りをあおり続けた。その責任は明白で、厳しく問われなければならない。前代未聞の議会乱入は、米国社会の分断の根深さをまざまざと見せつけた。トランプ氏の残した傷跡は広く深い。

だが、私たちが注目しなければならないのは、トランプ氏は昨年の大統領選挙で約7400万票を獲得しており、バイデン氏との差は僅か500~600万票しかないことだ。暴徒と化したのはごく一部であり、多くの「普通のアメリカ人」のトランプ氏支持者がいるのである。

分断が深まり硬直化した米国社会は、時間をかけて分断を修復し融合の道を探ることが大きな課題となる。粘り強い和解のプロセスは、劣化した民主主義を修復することにもなるはずだ。行き過ぎた格差を是正し、中間所得層の拡大を図ることが、分断修復への一歩となるだろう。それは政治と社会を安定することにもつながる。

共和党の牙城だったジョージア州で今月上旬に行われた上院2議席の決選投票では、民主党候補がいずれも勝利し、上下院ともバイデン氏の陣営が多数派を確保することとなった。新大統領には追い風となるが、人種や宗教、文化の対立、経済格差などが複雑に絡み合い分断された米国社会が再生するのは多くの困難を伴うと思われる。

1月20日に就任する新バイデン大統領は、難しい舵取りを迫られるだろうが、分断の修復に向けて全力を挙げて欲しい。

加えて、その背景には、世界的な構造的課題があることを忘れてはならない。グローバル経済や自由貿易、産業のデジタル化の進展で恩恵を受けたのは一部の人々や分野に限られ、むしろ格差が広がったと感じている人は多い。

このことは先進資本主義国家に共通した課題であり、格差や貧困の深刻化、根強い政治不信による民主主義の危機、ポピュリズムの台頭による社会の分断などは、これからの日本にとっても決して埒外なことではない。

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