連合総研

連合総研は働く人達のシンクタンクです
JTUC Research Institute For Advancement Of Living Standards

文字サイズ

研究員
の視点

尊厳ある介護テック社会に向けて

伊藤彰久2023年11月30日発行

進んできた見守り機器の導入

介護分野でのテクノロジー導入で最も進んでいるのが、見守り機器である。介護労働安定センターの令和4年度介護労働実態調査(事業者調査)によると、施設系(入所系)では、多い順に見守り・コミュニケーション(施設型)20.6%、移乗支援9.4%、介護業務支援8.5%、入浴支援7.1%の「介護ロボット」を導入しているという。通所系や居宅系では、これらの機器を含め、導入はまだまだ進んでいない。

 最も活用が進んでいる見守りの「介護ロボット」とは、施設内の居室に設置したカメラやセンサーである。介護労働者の確保難から、介護労働者の負担軽減、特に職員の配置が手薄な夜勤の際の居室回数を減らせる効果があるとされる。厚生労働省は2016年度から、見守り機器の導入を導入することを条件に、介護保険からの報酬に加算をしており、2019年度の報酬改定では条件をさらに緩和させて、介護テクノロジー導入のインセンティブを強化している。

悩ましい個人情報使用の同意

 介護現場で働く労働者の立場からすると、手元の端末からアラートが出るまで訪室しなくて済むことは、大きな業務負担の軽減であり、「働き方改革」ということになるだろう。介護労働者の負担軽減と確保難の対策として、見守り機器の活用が有効だとしても、忘れてはいけないことがある。それはサービス利用者の尊厳、納得と同意だと思っている。

 介護サービスの利用契約の締結にあたっては、サービス利用契約書の交付が行われる。これに合わせて、重要事項説明書や個人情報使用同意書にも署名をする。契約は当事者本人が行うのが基本だが、介護サービスの場合、当事者に判断能力が不十分である場合はもちろん、判断能力がある場合にも、家族など本人以外が行う場合が少なくない(第三者のためにする契約)。実際に、私自身何度もこうした契約を締結したが、そのたびに個人情報に関する同意の場面で逡巡した。

プライバシー保護か介護労働者の負担軽減か

 カメラを使用した見守り機器を提供している企業2社に、導入施設では実際どのような運用がされているのかを聞いてみた。10年以上前から販売しているという1社は、「プライバシー侵害の懸念からセンサーの活用が進んだが、またカメラの需要が高まっていると感じる。施設は介護スタッフの確保難が大変で、プライバシーどころではないのでは。利用している施設ではすべて標準画像(加工レベルを上げないで使用)で使っている」とのこと。もう1社も同様で、リアル画像での運用が基本とのことだった。

 先日、青森県の本州最北に近い地の介護老人福祉施設を見学する機会があった。個室ユニットはもちろん多床室にも各ベッドに対して1基ずつ赤外線カメラとマイクロ波センサーを配置し、施設内のサーバーPCを介して、各職員が携帯端末で全室の状況を把握できるシステムが導入されていた。赤外線カメラは通常のモノクロ動画の表示が可能だが、シルエット画像というネガポジ反転のような画像を描写する運用としていた。また、マイクロ波センサーは筋肉や心臓の動きを詳細に把握しつつも、表情は映し出されていなかった。アラートのしきい値の設定などは入所者のアセスメントを月1回行うカンファレンスで確認しているという。なぜセンサーだけでなくカメラを導入したのか、シルエット画像で運用しているのかを問うたところ、「生体センサーだけだと安否確認が一目瞭然に確認できない。プライバシーの確保を両立させるためにシルエット画像での運用としている」とのことだった。

周囲の人を悩ませないためにも

 生前意思の表明にあたっては、臓器提供に関する意思は健康保険証や運転免許証などに書き込めるようになっている。人生の最終段階の医療の受け方を自ら決めておくことの普及・啓発のため、政府が「人生会議」といった名称までつけてACP(Advanced Care Planning)を主導している。40歳になると強制的に介護保険の被保険者とされるが、その際介護保険証は交付されない。そろそろ親の介護が近くなるその段階で、誰しもが自らの要介護生活を想像して、介護保険証の裏に医療や個人情報の取扱いに関する同意などを記載できるタイミングをつくることはできないだろうか。尊厳ある要介護生活と介護労働者の負担軽減を両立させる世の中をつくりたいものだ。

(参考文献)

公益財団法人介護労働安定センター「令和4年度介護労働実態調査 事業所における介護労働実態調査結果報告書」

https://www.kaigo-center.or.jp/report/pdf/2023r01_chousa_jigyousho_kekka.pdf

(関連情報)

介護×テクノロジーの未来

https://www.rengo-soken.or.jp/column/2023/04/201600.html

DIO No.381 介護サービスの質を上げる~テクノロジーの可能性を探る~

https://www.rengo-soken.or.jp/dio/2022/12/120900.html

厚生労働省「人生会議」してみませんか

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_02783.html

≪ 前の記事 次の記事 ≫

PAGE
TOP