「月曜日の出社が楽しみ」な会社
堀江 則子2026年8月28日発行
社員の約9割が「月曜日の出社が楽しみ」
月曜日、会社に行くのが楽しみですか。
この問いに、従業員の9割が「はい」と答える会社が徳島県にある。1923年創業、自動車や家電向けのナットなどを製造・販売する西精工株式会社(以下「西精工」)である。
同社は「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞をはじめ複数の表彰を受け、厚生労働省の働き方改革特設サイトでも、理念を土台に対話型の働きがい改革を進める企業として紹介されている。
その職場を見せていただく機会に恵まれ、徳島へ飛んだ。
「無関心」から「対話」へ
輝かしい実績を誇る西精工だが、西泰宏社長(以下「西社長」)が入社した1998年当時、その姿は今とは大きく異なっていた。社内には暗い雰囲気が漂い、西社長の入社直前には、新入社員が命を落とす事故も起きていた。
それほどの事故が起きても、社員が互いの表情や体調を気にかけることはない。製品であるネジやナットが工場の床に落ちていても、誰も拾わずによけて通る。西社長が目の当たりにしたのは、人にも仕事にも関心を失った職場だった。
誰かがあの新入社員の異変に気づき、声をかけていたら、事故は防げたかもしれない。この痛切な思いが、改革の原点となった。
西社長は、あいさつや清掃に自ら取り組み、2006年には新たな経営理念を制定した。しかし、理念を掲げるだけでは職場に根づかない。そこで、働く意味やあいさつの大切さについて社員にメッセージを送り、返信に応える対話を3年間続けた。その蓄積をまとめたものが、200を超える「西精工フィロソフィー」である。
これを日々の仕事や生活に引き寄せ、自分の言葉で捉え直す場となっているのが、毎朝の朝礼である。
業務の中で最も大切な「朝礼」
西精工では、毎朝約1時間の朝礼を行う。
毎朝1時間を朝礼に充てることは、生産性を下げるようにも映る。しかし、西社長は、業務の中で最も大切なのは朝礼だと断言する。生産性を阻害する根本原因は人間関係にあるから、朝礼を通じて互いの考えや背景を知り、支え合える関係を築くことが、結果として仕事の質を高めるという。
午前8時の始業とともに、全員が立ったまま、円になる。体調が悪ければ1時間立ち続けることは難しく、円になれば互いの顔色の変化にも気づくことができるからだ。
朝礼は体調確認から始まり、創業の精神、経営理念、中期ビジョンを全員で唱和する。その後、フィロソフィーから毎日1つのテーマを取り上げ、小グループに分かれて、感じたことや身近な経験を自分の言葉で語り合う。
対話の質の高さに、驚いた。
ある若手社員がこう語った。「『自分の体調を整えることは、周囲に心配をかけないという心遣いでもある』という意見に触れ、自分にはその視点が欠けていました」
リーダーが問う。「それは、どのように人間尊重の精神につながるのですか」
若手社員はしばらく考えてから答えた。「自分の体調は自分だけの問題ではなく、周囲の人との関わりにも影響する。だから、体調を整えることも、人を尊重する行動の一つだと感じました」
自己管理の問題とされがちな体調管理が、リーダーの問いに導かれ、自らの言葉で人間尊重の理念につながっていく。対話を通じて理念が日々血肉になっていく。
円に加わってみて
幸運にも朝礼の感想を求められ、社員の円に加わることができた。その内側には、外から見ていたときとはまったく違う「場」があった。
円に入った瞬間、全員が身体と視線をこちらに向けた。私の話が全身全霊で聴かれている、と感じた。大家族の一員として迎え入れられたような温かさに包まれ、心が満たされていく。至福の時だった。
気づく力と気配り
朝礼の後は、工場や社屋を見学した。どこへ行っても、社員の皆さんが笑顔で元気よく挨拶してくださる。その上、とても親切だ。ゴミ箱がないかさりげなく目で探していたら、年配の男性社員が気づき、「捨てときましょか」と声をかけてくださった。気づく力と気配りに、思わず頭が下がった。
社屋の入り口には、社員一人ひとりのミッションステートメントが貼られている。ミッションステートメントには、「誰に対してどんなキラキラした役割を発揮できますか」という項目がある。そこには、互いの幸福を願い、支え合いながら役割を発揮しようとする姿勢が滲み出ていた。
社員の幸せを起点に
締めくくりの西社長の講話に、その経営観が凝縮された場面があった。力を注いでいる障がい者雇用について語ったときのことである。
「利益が出ると、ほっとします。ですが、障がいのある社員が働く喜びを感じ、その幸せそうな顔を見ることに、幸せを感じます」
そう語る西社長は言葉を詰まらせ、目にうっすらと涙を浮かべていた。社員を家族のように大切にしていることが、その姿から伝わってきた。
企業が事業を続けていくうえで、利益は欠かせない。しかし西精工にとって、社員の幸せは利益を生み出すための手段ではない。
「社員の幸せは私の幸せです。みんなで幸せになりましょう」
経営理念を策定した際、西社長が語ったこの言葉が示すように、西精工の経営の根幹にあるのは、社員一人ひとりの幸せである。
私たちの職場でできること
西精工の改革は、西社長の痛切な思いから始まり、四半世紀にわたって続けられてきた。だからこの話は、優れた経営者の物語としても読める。
では、そうした経営者がいない職場は、どうすればよいのか。
職場の人の体調を気遣うこと。相手の言葉の背景まで聴くこと。良質な問いを投げかけること。その問いに、自分の言葉で答えること。いずれも西精工の朝礼で行われていたことであり、どんな立場であっても、いまこの瞬間から始めることができる。
職場の一人ひとりの思いと行動が、「月曜日の出社が楽しみ」の種になる。
【引用・参考文献等】
厚生労働省(2021)「理念を土台にした『対話型働きがい』改革―パーツ・ナット製造販売『西精工』の場合―」『働き方改革 特設サイト CASE STUDY』
(https://hatarakikatakaikaku.mhlw.go.jp/casestudy/file062/ 2026年8月20日取得)
天外伺朗・西泰宏(2018)『人間性尊重型大家族主義経営―新しい「日本型経営」の夜明け』内外出版社。
西精工株式会社(2014)「西精工の朝礼」『BLOG 西精工の日常』(https://www.nishi-seiko.co.jp/blog/20140421/ 2026年8月20日取得)
西精工株式会社(2017)「ベテランと若手の融合!成型2係!」『BLOG 西精工の日常』(https://www.nishi-seiko.co.jp/blog/20171031/ 2026年8月20日取得)
西精工株式会社「風土文化」採用サイト(https://www.nishi-seiko.co.jp/recruit/environment/culture/ 2026年8月20日取得)
タナベコンサルティング戦略総合研究所(2025)「社員の幸せを追求する『境界をつくらない対話』西精工」(https://review.tanabeconsulting.co.jp/modelcompanies/55628/ 2026年8月20日取得)
西村恵(2026)「新連載① なぜ西精工は『幸せな会社』と呼ばれるのか―企業視察で見えた組織づくりの本質―」(https://note.com/megu_wellbeing82/n/nb4b7e252aead?magazine_key=m61f82757452 2026年8月20日取得)
【関連情報】
月刊DIO No.412「今こそ『対話』を組織の力に」
https://www.rengo-soken.or.jp/dio/2025/10/210900.html
月刊DIO No.421「声を出せるチーム・職場が、組織を強くする―心理的安全性再考」
https://www.rengo-soken.or.jp/dio/2026/07/170900.html