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労働組合の悩みの種「役員のなり手がいない」を解決する方法

中村 天江2026年6月29日発行

組合役員のなり手をめぐる悪循環

労働組合向けのセミナーなどで「一番の課題は何ですか?」と尋ねると、「組合役員のなり手がいない」という声をよくうかがいます。原因を掘り下げると、「組合役員になるメリットがなくなっている」「仕事や家庭が忙しい中、とても組合役員なんてできないといわれる」、さらには「昔に比べて自分さえよければいいという人が増えた。人のために活動する労働組合に時間を割きたくないといわれる」ともお聞きします。

実際、労働調査協議会が数年おきに行っている「次代のユニオンリーダー調査」によれば、「役員のなり手問題」は常に上位にあります。ちなみにこの調査の対象は、5~10 年先の組合活動を中心的に担うでああろう単組・支部の執行委員以上の組合役員、職場委員や青年・女性委員などです。

まず、ユニオンリーダーが「組合活動を続ける中で最近した経験」は、1位が「支部・単組の執行部へのなり手がいない」71.1%、2位が「組合の役員になることが、以前ほど企業内で魅力のあるキャリアではなくなっている」63.7%と(図表1)であり、大半の労働組合が「役員のなり手問題」に直面しています。

さらにユニオンリーダーの悩みや不満の上位には、1位「組合業務のために自分の生活や家庭生活が犠牲になっている」37.8%、2位「仕事が忙しくて組合業務ができない」30.2%、4位「組合業務が忙しくて仕事に支障をきたす」21.4%と、組合活動の時間に関する悩みが集中しています(図表2)。組合活動における時間圧迫の問題は、それだけ切実なのです。

これらを総合すると、組合役員になるうえでの最大の障害は時間とキャリアの問題で、それらを解決しなければ、後任がみつからないため役員を交代できず、役員のなり手がいない問題が深刻化していくという悪循環が発生することになります。したがって、組合役員のなり手を増やすには、組合役員にとっての時間とキャリアの問題を解決することが最も効果的です。

時間とキャリアという2大課題

しかしながら、労働組合の皆さんに話をうかがうと、組合役員の時間確保とキャリアに関する対応は変化の途上です。時間に関してはデジタル化やオンライン化の推進など、多様な人が参加しやすくなるよう見直しが拡大しており、組合役員に関する研修も拡充されています。けれども、もっと抜本的な対策を取りうると筆者は考えています。具体策に入る前に、組合役員の時間とキャリアに関する現状について、もう少し確認しておきましょう。

まず、組合活動時間に関しては、今まで以上に対策が必須になっています。労調協調査が示すように、組合役員の最大の負担になっていることに加え、雇用形態の多様化や女性の労働参加・組合参加が進んでいるからです。パートタイム労働者や女性は、正社員の男性以上に、仕事と家庭生活の両立のために時間の捻出が難しいことが珍しくありません。そのため、既にオンライン会議の活用、組合資料や伝達のデジタル化、活動時間の見直し(休日や夜から平日の昼休みへのシフト)を行っている労働組合もかなりあります。こうした取り組みが奏功した労働組合では、女性やパートタイム労働者の役員が増えていますが、逆に見直しができていない労働組合では、役員は男性ばかりということが続いています。いまや労働組合は組合活動による組合役員の時間圧迫に正面から向き合う必要が生じています。

加えて、組合役員の経験を個人のキャリアのなかでどのように位置づけるかも非常に重要です。冒頭に紹介したように、組合三役や上部団体の方々からは、度々「昔に比べて自分さえよければいいという人が増えた。人のために活動する労働組合に時間を割きたくないといわれる」とうかがいます。しかし、程度の差はあれ、誰でも自分の生活や人生は大事ですし、そうするのはとても自然なことです。利他と利己がうまく循環するときに、人はその活動にのめりこみ、それを続けられます。

確かに労働運動には、個人の損得を超えて社会正義を追求する高邁な活動という面があります。また、組合役員は組合員の「世話係」、職場の「世話役」を自任し、利他的な意思決定や行動を求められる場面も多々あります。とはいえ、こうした利他的な行動は強い動機や活動を可能にする余裕(金銭的、時間的など)がある場合に促進されることがわかっています。戦後の復興期や高度経済成長期には同じような不満や不足を感じる労働者が多かったのに対し、今日では経済・社会環境が整い、労働条件の悪くない会社に入り、流れで組合員になっていたというケースが大半です。そういう人たちに労働組合の明暗を分ける組合役員を託していくには、理想論とは別のもっと現実的な対応が求められます。

「希望者は組合役員にしない」という慣習

加えて驚くべきことに、「自ら希望する人は絶対に組合役員にしない」と断言する組合がかなりあります。7割以上が役員のなり手不足に直面しているにもかかわらずです。理由は大きく2つあります。

1つは、思想や運動方針に関するもので、昔やりたい人に任せたら組合員の多くが望むのとは違う方向に活動が先鋭化したという教訓から、既存路線を踏襲してくれる人に任せたいという組合が結構あります。もう1つは、個人の出世欲や権力欲、自己実現欲から組合役員になろうとする人を排除するためです。どちらも労働組合の私物化や制御不能化を防ぎたいという思いから、「希望者は組合役員にしない」という方針を、過去から申し送りしている組合があります。

ただ、ここでお尋ねしたいのです。思想色の強い勢力に支配される可能性は、今も昔と同じですか?自ら手を挙げる人は全員、我欲のために組合役員になろうとしていますか?もちろん、先鋭的・強硬的な活動を望む人はおり、そうした勢力が力をもつ可能性は、今もゼロではありません。ですが、昔に比べればその可能性は小さくなっています。また、誰もが出世欲や権力欲だけで動いているわけではなく、人事制度や働き方に違和感や改善点をみつけ、組合役員として取り組みたいという人もそれなりにいます。利他と利己は両輪であり、組合役員にとっては労組の発展と自己実現が両立できる方が望ましいに決まっています。「自ら希望する人は絶対に組合役員にしない」というゼロ・ヒャクの意思決定では、そういう前向き希望者まで候補から排除してしまいます。

組合役員の候補者が多数いる組織であれば、「希望者には任せない」という判断基準もありえるのかもしれません。しかし、なり手がいなくて苦労しているのに、なりたい人に任せないというのは、あまりに不合理です。一般に問題意識や意欲のある人は、そうでない人よりも、熱心に活動に取り組むことが知られています。つまり、意欲のある人を役員にするのは、労組の持続可能性を高め、活性化するためにも有益です。労働組合が取り組むべきは、希望者を一律に組合役員の対象から除外することではなく、その中から組合員や組合の発展のために活動してくれる人をみつけて、バトンを託すことです。

過半数代表者が重要になるという環境変化

さらに環境変化によっても、組合役員の活動時間やキャリアについて正面から見直す必要性も生じています。現在、高市政権のもとでは労働基準法の改正や労働時間規制の見直し(裁量労働制の拡大など)が検討されていますが、労働者側の過半数代表についても議論されています。労働組合の皆さんはあまり意識しないかもしれませんが、世の中には過半数労働組合がない企業の方が圧倒的に多いため、過半数代表「者」の仕組みの整備なく、こうした法政策はまともに実現できません。

しかし、従業員個人が担う過半数代表者については、多くの問題が指摘されてきました。過半数労働組合がない職場では、人事や労働法に関する知識がまったくない従業員が、時には会社からの実質的な指名により、過半数代表者になることさえあります。しかし就業規則や人事制度の見直しでは、知識や経験がなければ、仮に違和感があっても、それが個人の感想なのか制度の問題なのかの判断ができず、もし問題があったとしても他の従業員の意向を確認する手段はなく、さらに、会社側に正式に申し入れるとなると、個人で担う負担は非常に重いものとなります。労働組合であれば、組織的に知見が蓄積されており、組合員の意見を集約し、経営側に申し入れ、協議する仕組みも確立されています。また、ある部分では会社に代わって従業員への説明や合意形成を行います。そのため労働条件に関する集団的労使関係・労使コミュニケーションの担い手としては、労働組合の方が、圧倒的に強度が高く、従業員の意向を反映した動きができます。

したがって労働基準法の見直しに先駆けては、厚生労働省が2025年に公表した『労働基準関係法制研究会報告書』において、「まずは、労働組合の活性化が望まれるとともに、過半数代表者の改善策を実施し、その状況を把握しながら、労使コミュニケーションの在り方について更に議論を深めていくべきである。」と述べられています。

この動きで重要なことは2点あります。1つは、過半数労働組合がない職場で過半数代表者の役割を有効に機能させるための法制度や運用の見直しです。もう1つは、そうした過半数代表者の仕組みが強化されるなかで、過半数労働組合が担う役割の優先や負担・貢献に対する支援の在り方の見直しです。本稿は労働組合の皆さんを主な対象とした論考なので、様々な論点があるものの、前者については割愛します。

強調しておきたいのは、過半数労働組合がない職場では、過半数代表者は労働者の代表である以上に、会社・事業の発展のために必要な役割を果たしているということです。よって、過半数代表者としての活動は、経営にとって不可欠であり、それに貢献する従業員は、基本的には評価される、少なくともマイナス評価にはならないということです。

ところが、労働組合の役員として過半数代表の役割を担えば、その活動は組合活動の一環として、就業時間の外側で行うこととなり、さらに組合役員だった間のキャリアは停滞し、職場に戻った時には同僚から昇進で後れを取る、ということが起きています。これはあまりにもバランスを欠いています。つまり、過半数代表者の環境整備を進めるのであれば、それよりも本質的に有効な活動をしている過半数労働組合の役員に対してはより肯定的な位置づけにすることが必須です。これはとりも直さず、組合役員の時間やキャリアに対して見直しを図ることになります。

組合役員のなり手を増やす抜本策

このような組合役員の悩みや不満を解消し、集団的労使関係をめぐる環境変化に対応し、そして、労働組合の持続性を高めるために、組合役員を増やしていくための提案が3つあります。

  • 提案1 労組の専従役員が職場に戻る際、会社は組合役員の経験・スキルを評価する
  • 提案2 労働組合は組合役員に求める要件、身につくスキル・経験を言語化する
  • 提案3 過半数労働組合としての活動時間を就業時間のなかに確保する
      (その間の賃金も支払われる)

これらは2024年に公表された連合総研・連合「労働組合の未来」研究会の報告書『労働組合の「未来」を創る ―理解・共感・参加を高める16のアプローチ―』の成果を、研究会の事務局主担当として様々なところで紹介・説明・対話するなかで、筆者のなかで醸成されたものです。そのため、研究会報告書の論文を根拠にしている部分と、筆者自身のかねてからの問題意識や知見から組み立てている部分が混在しています。関連性が高い論文についてはリンクを貼っておくので合わせて御覧ください。

提案1 労組の専従役員が職場に戻る際、会社は組合役員の経験・スキルを評価する

まず、「提案1 労組の専従役員が職場に戻る際、会社は組合役員の経験・スキルを評価する」は、多くの労組が直面している「組合の役員になることが、以前ほど企業内で魅力のあるキャリアではなくなっている」という悩み・不満を解消し、かつ、過半数代表「者」と過半数労働組合のバランスをとるためのものです。

一般に、三役や専従役員になった後のキャリアは、「組合運動を続ける」か「職場に戻る」のどちらかです。前者では、上部団体への転籍・派遣や運動家になる道があります(縫部 2024)。日本では職業運動家は少ないため、これらの環境整備も求められますが、これは労働界の中の取り組みなので、労働界で推進できると期待しています。(紙幅に制約があるため、これ以上深入りしません。)

他方、本稿で焦点をあてるのは、専従役員が職場に戻る場合のキャリアパスの見直しです。会社に戻る場合のキャリアは会社(労使関係)によって異なり、専従役員の間、等級が固定されたままで、何年かたって職場に戻ると、同僚から昇進で後れを取るケースと、組合役員の経験が評価されて管理職や役員に登用されるケースがあります。かつては昇進が約束されている会社もありましたが、近年では人物重視になっており、本人が活躍すれば出世するが、評価が芳しくなければそのままということも起きています。成果主義や人物本位の登用は、組合役員の経験者に限らないので、これは受け入れるべき変化でしょう。

問題なのは、労組の専従役員の間、職務等級等が固定されたままで、何年かたって職場に戻ると、周囲から昇進で後れを取り、キャリアのマイナスになるケースです。こうした慣行が続いている場合、組合役員になることがキャリアの魅力にならないどころか、キャリアの足枷になってしまいます。組合活動が個人に負担を強いるものとなっているのです。

労働組合の皆さんにどうしてこのような慣行が続いているのか尋ねると、「昔からそうで特に見直していない」という答えが一番多く、次に「組合役員をしている間、職場の進歩についていけなくなっているので、マイナス評価になってもやむをえない」が続きます。しかし、労働組合での経験は本当に会社にとってマイナスで、評価に値しないのでしょうか?

筆者は2つの点で組合役員の経験は、会社からも評価しうると考えています。1つは、企業が「中途採用」や「越境学習」を重視するようになってきているからです。近年、大企業でも中途採用を拡大する動きが顕著ですが、それは単に人手不足だからではなく、外部での経験や知識が既存従業員のそれらと相互作用を起こし、環境変化への適応や付加価値を生むために有益だからです。また、副業やボランティアなどの「越境学習」、つまり、組織の境界を越えて、ふだんとは異なる環境で、気づきや学びを得て、元の場所と行き来しながら、その経験を活かすことも評価されるようになってきています(石山・伊達 2022)。

確かに組合の専従役員が、職場から離れている間に仕事の仕方やシステムが新しくなっていて、復帰後すぐに順応できないことはあるかもしれません。しかし、いまやリスキリングやアップスキリングが求められる時代です。性別によらず育児などで職場を離れることも広がっています。よって、新しく学ぶべきことがあれば、学べばよいのです。

むしろ労組の専従役員はその間、経営動向を理解し、社内人脈を広げ、従来とは違う視点で仕事や会社の課題を把握し、その改善に努めています。労調協の調査(図表3)でも、組合役員・委員(部員)を引き受けた理由の1位は「つきあいや接する情報の範囲が広がり、視野が開ける」64.0%、3位は「交渉力や折衝力、管理能力など職場では身につけにくい能力の取得に役立つ」23.9%となっています。しかも、専従役員からの職場復帰は、中途入社者よりもはるかに再適応が円滑です。よって、組合役員の経験を積極的に評価する余地は大いにあります。

加えて、もう1つは、過半数代表「者」との比較衡量です。前述したように、働き方の多様化や人事制度や就業規則の見直しが続くなか、過半数労働組合の組合役員が果たしている役割は、単なる労働者代表ではなく、企業にとっても欠かすことができない集団的労使関係の担い手になっています。労働組合の守備範囲も、昔は労働争議に至ることも含めて労使の対立が基軸にあったかもしれませんが、いまでは労使協調の取り組みが拡大しています。とりわけ過半数労働組合としての役割は、基本的に労使協調路線のもとにあるため、労組の守備範囲が労使対立から労使協調にシフトし、最近では労使共創を掲げるところもでてきています。したがって、それに見合う組合役員の評価やキャリアパスを再構築する必要があります。

そのためには労組の専従役員が職場に戻る際に、労働組合での経験や知識などを評価する仕組みの確立が必要です。具体的には、まず、労組の専従役員になっている間の無条件の等級固定を改めます。組合役員の期間や経験によっては、途中で等級をあげることも検討すべきです。また、労働組合によっては専従になっている間は会社側の研修や昇級試験を受けられないので、昇級できないということも起きています。しかし、いずれ職場に戻る可能性がある組合役員についてはそうした機会を付与する、もしくは中途採用者と同様にそれらを必須としないことも含めて、労使での検討・対応が望まれます。

(関連する論文)

提案2 労働組合は組合役員に求める要件、身につくスキル・経験を言語化する

提案1が会社に対するものだったのに対し、「提案2 労働組合は組合役員に求める要件、身につくスキル・経験を言語化する」は、労働組合が内部で行うものです。提案2の目的は2つあります。

1つは、労働組合の「自ら希望する人は組合役員にしない」という極端な慣行を見直し、意欲のある人を積極的に組合役員にするフローを確立するためです。組合役員は選挙で決まるため、会社役員のように誰かが指名することはできません。また、執行部としてこの人物に託したいと思っても、それが組合員の総意と異なることもあるでしょう。それでも、労働組合が組織として発展していくためには、組合役員に何を期待するのか、どうあってほしいのか言語化することが大切です。

なぜなら労働組合の多くで組合役員は、組合執行部が自分たちの眼鏡にかなった人に声をかけ、役員選挙に立候補してもらい、組合員に承認されるというフローを組んでいるからです。しかし、「自分たちの眼鏡にかなった人に声をかける」のは、組織の同質性を高めるのには効果的ですが、多様な価値観や経験をもった人を巻き込んでいくうえでは妨げになります。

かつては「組合役員は正社員や男性」といった暗黙の了解があった労組でも、雇用形態の多様化や女性の労働参加にともない、今では組合役員は組合員の構成を反映すべきだと考えるところが増えています。ところが人間は認知バイアスから、「これまで役員をやってきた人と同じタイプ、同じバックグラウンドの人物」「自分とよく似た人物、自分の近くにいる人物」を高く評価し、自分とは違う属性や経験、価値観の人を、悪意なく過小評価し、しかも、その自覚が難しいことが知られています。したがって、組合役員のなり手探しにおける「無意識のバイアス」を排除しなければなりません(村上 2024)。そのためには、組合役員として「何が望ましく、何は望ましくないのか」を成文化し、役員候補者の絞り込みや声がけの際に、それにもとづき点検することが求められます。

もう1つは、提案1で述べた組合専従役員が職場に戻る際のキャリアアップを叶えるためです。会社の人材登用では能力や実績がシビアに問われるなかで、「組合役員だったから評価する」というのは成立しないため、組合役員の間にどんなスキル・経験を身につけたのか説得的に説明する必要があります。その共通言語を役員経験者が個人で開発するのは極めて難しいため、組織として言語化することが求められます。

とくに組合リーダーと会社リーダーでは、共通して求められる要件とそうでない要件があるという研究があります(三吉 2025)。例えば、組合リーダーも会社リーダーも、コミュニケーション力が高く、人望の厚い人物が好まれるという点は共通しますが、会社リーダーが「仕事ができる(合理的)」が高く評価されるのに対し、組合リーダーは「優秀過ぎず、人の話をよく聞く(傾聴力が高い)」が好まれます。なぜなら、ビジネスでは事業の成長・発展がゴールなのに対し、労働組合は労働者の代表であることが最重要だからです。しかし、会社リーダーと組合リーダーに求められる要件の異同についても、はっきりとは言語化されてきませんでした。

労働組合側では組合役員のスキル・経験を言語化できれば、組合役員の候補者探しにおいても、組合役員が職場に戻る時のキャリアをつなぐためにも活用できます。既に組合役員に求める要件や身につくスキル・経験の言語化に取り組む労働組合がでてきています。組合役員となりうる人材を増やし、みつけ、組織を発展させていたくめには、組合役員に求める基準を言語化し、その要件を共有し、それに即した人物を積極的に発掘、支援していくことが重要です。

(関連する論文)

提案3 過半数労働組合としての活動時間を就業時間のなかに確保する(その間の賃金も支払われる)

「提案3 過半数労働組合としての活動時間を就業時間のなかに確保する(その間の賃金も支払われる)」は、過半数代表「者」と過半数労働組合の比較衡量にのっとり、かつ、組合役員の時間的負担を緩和し、さらに正社員よりも賃金水準の低い人たちの組合役員への門戸を拡大するためのものです。

組合活動は一般的に組合員の組合費を活動原資とし、就業時間の外側、つまり就業後や休日などに行われます。労働組合は会社から独立した組織であり、ときには会社と対立し、ストライキなどを起こすこともあるためです。憲法や労働組合法はこうした労働者や労働組合の権利を保障していますが、厚労省「令和4年労使間の交渉実態等に関する調査」によれば、労働組合の89.5%は労使関係を安定的だと答えており、不安定との回答はわずか2.6%です。近年では働き方改革や待遇改善などにより人事制度が就業規則の見直しが繰り返され、労使協調的な活動の比重が一層高まっています。さらに労働基準法等の見直しが行われれば、過半数労働組合の役割は拡大する可能性があります。

ところが、労使協調的な施策には、経営の柔軟性や競争力を高めるために行われるものが多く含まれます。したがって、労働組合(労働者)が就業時間の外側で活動することが無条件に当然視されるものではありません。とくに過半数労働組合としての活動は、過半数代表者との比較衡量でいえば、むしろ就業時間のなかに組み入れるべきものです。したがって、過半数労働組合の活動時間やそれにともなう賃金控除を、慣例にのっとり労働者負担とするのは、労働組合への負担を過度に高めるものになります。

こうした環境変化も見込み、新谷(2024)は、過半数労働組合の機能を果たす労働組合に対しては、組合活動時間を就業時間内に認め賃金控除もしない(賃金が支払われる)「消極的経費援助」の導入を提起しました。詳細は論文を読んでいただきたいのですが、「消極的経費援助」のポイントは2つあります。

1つは、日本の労働組合や経営側のほとんどが「消極的経費援助」は、会社側の労働組合への支配介入を防ぐために労働組合法が禁じる「不当労働行為」に該当すると考え、それを忌避してきたのに対し、労働法の研究者たち(学説)は「使用者による労働組合への経費援助は、形式的には不当労働行為に見えても、実質的に組合の自主性を阻害しないものはそれに該当しない」という見解が多数であるということです。もう1つは、海外では「消極的経費援助」を認めている国々があるということです。つまり、日本の労使の現場では当然視されてきた「過半数労働組合としての組合員への説明や意見集約、使用者側とのやりとりといった活動を就業時間の外側で行う」というのは決して当然ではないのです。

労使協調的、とくに過半数代表としての組合活動を、就業時間のなかで行うようにできれば、組合活動により私生活が犠牲になるといった、組合役員の最大の悩みが大幅に緩和されます。また、その活動に対して賃金も払われるので、賃金水準の低いパートタイム労働者や有期雇用労働者が組合役員になりやすくなります。「消極的経費援助」はこのように、①組合役員の時間負担の緩和、②多様な労働者が組合役員になる道筋の確保、③過半数労働組合と過半数代表者のバランス、の3点を満たしており、組合役員のなり手不足による閉塞感を打開する突破口になるものです。

ちなみに、厚労省『労働基準関係法制研究会報告書』では、「過半数代表者に対する支援と併せて、過半数労働組合にも適用可能な支援は何かということを考える必要がある。例えば、労働組合が過半数代表者として活動する場合の活動時間の確保や(中略)支援は、過半数労働組合、過半数代表者のいずれが過半数代表の役割を果たす場合においても共通して必要と考えられるため、労働組合が過半数代表として活動する場合に、当該労働組合に対しても行うことができる支援として明確化していくことが必要と考えられる。」とされており、「消極的経費援助」はその具現策とみなすこともできます。さらに、「労働組合の未来」研究会で玄田有史座長が行った座談会では「消極的経費援助のキャンペーンを行って広く普及すべき」との方向性が示されており、今後の積極推進が強く期待されます。

(関連する論文)

労働組合の自主・独立と経営との協調・共創の両立

ここまで、組合役員のなり手不足を引き起こしている、組合役員の時間負担とキャリア形成に関する問題を解決する方策として、以下の3つを提案し、それぞれについて説明してきました。

提案1 労組の専従役員が職場に戻る際、会社は組合役員の経験・スキルを評価する
提案2 労働組合は組合役員に求める要件、身につくスキル・経験を言語化する
提案3 過半数労働組合としての活動時間を就業時間のなかに確保する
(その間の賃金も支払われる)

最後にこうした方策と労働組合の自主・独立の維持について補足します。組合役員のスキル・経験を本業で認める仕組みの構築や、就業時間のなかに過半数労働組合としての活動時間を担保することは、いずれも労使協調的な取り組みであり、労働組合の自主・独立が損なわれるのかという懸念を持つ方もいるかもしれません。

しかし、現実として経営を前進させるために、会社側の取り組みに協力している時間を、すべて就業時間の外側で、組合費を財源として行うのは、あまりにもバランスを欠いているということがまず大前提にあります。学説はその点を早くから指摘してきたにもかかわらず、労使や行政の現場で過度に厳密な運用が続けられてきたのです。

加えて、日本の労働組合の多くは、基本的には労使協調路線で安定的な労使関係を築き、経営側との信頼関係も重視し、それでもどうしても問題が解決しない場合は争議権を発動するといった、是々非々で運営しているところが大半です。したがって、労働組合の自主・独立と使用者との協調を今までも両立させてきました。提案1~3は、いずれも労働組合の自主・独立と使用者との協調・共創の境界線を、今日の実態に合わせて見直すことを提起しているものです。

組合役員の時間負担やキャリア停滞の問題は以前から認識されていたにもかかわらず、抜本的な解決策までふみこめずにきた労働組合が多数存在します。そのため、提案1~3の推進により、労働組合の自主・独立が瓦解するというのは極端な懸念に思われます。むしろ、今日の実態に合わせて、どのようにすれば、組合役員の個人の生活やキャリアと、労働組合の自主・独立、そして会社の発展を両立できるのかという具体的な線引きにこそ、労働組合の知恵や議論を集中させた方が建設的です。

推進にあたって生じる課題への対応

セミナー等で筆者が提言1~3について丁寧に説明すると、労組の皆さんから最初は疑問や反対意見が出ても、最終的には方向性に対しては賛同し、具体的に検討したいという声を数多く頂戴してきました。ところが、いざ具体的に推進しようとすると別の懸念や課題が浮上し、そこで止まってしまうということが珍しくありませんでした。そこで、これまでにいただいた主な質問と、それに対する筆者の見解を添えておきます。

「消極的経費援助の仕組みは既にあるが、それで認められている時間が少なすぎる。が、活動時間の確保を会社側に申し入れたことはない」
今日の実態に合わせて、まずは会社に線引きの見直し(時間の増加)を申し入れる。

「組合活動時間の一部を就業時間に組み入れると、就業時間に課せられる業務を完遂できなくなるのではないか」
過半数代表「者」の場合はその活動分も含めて業務量を決めているのに、労働組合には追加的負担がかかるのはおかしい。両方合わせて適正量になるように調整することが望ましい。

「過半数労働組合だが複数組合がある場合、使用者側の協力が得られない」
過半数代表の機能は過半数労働組合や過半数代表者しか担わないので、すべての労組が同列にならないことを使用者に理解を求める。

「自分たちだけでは組合役員のスキル・経験の言語化ができない」
研究者など、外部の専門家に協力をあおぐ。

提案1~3を実現するにあたっては、単組や個別労使はそれぞれの慣行にもとづいた具体的な検討・対応が求められます。なお、それを推進するにあたって労働組合の皆さんが共通しておっしゃっていたのは、「単組で単独で推進するのは難しいので、産別労組や連合が旗をふってほしい。好事例を横展開してほしい。」ということでした。実際、こうした慣行は組織に深く埋め込まれているので、新たなロジックに変えるのには相応のパワーがいります。したがって、単組・個別労使だけでなく、社会全体として上記の変化をムーブメントにしていくことが併せて必要です。

組合役員のなり手の確保は、労働組合の生命線です。そして、集団的労使関係・労使コミュニケーションの再構築が問われる今は、それに取り組むべきタイミングでもあります。「労働組合の未来」研究会の一連の提案が、労働組合がこの問題に正面から切り込み、未来に向けた道筋を拓く一助になることを願っています。


参考文献
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