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前理事長コラム
『時代を見つめる』
古賀 伸明

「凛とした佇まい」

File.652021年5月12日発行

菅義偉首相が日本学術会議の新会員(105人)のうち、同会議が推薦した人文・社会科学系の研究者6人を任命拒否して半年強が経過した。

今年3月~4月にかけて、その6人のうち、2人が学術会議の「連携会員」、3人が「特任連携会員」として活動に参加することが報道された。

日本学術会議の定員は第1部、第2部、第3部の各70人で構成されている。6人が所属予定であった第1部は、任命拒否により約1割が欠員になったままである。

連携会員、特任連携会員は、学術会議が提言などの意見をまとめる際のサポート役として会員と一緒に活動しているそうだ。約1割の欠員のままでの活動では、彼らのサポートが必要なのは当然のことだろう。

その特任連携会員に1人希望しなかった日本近代史の研究者である歴史学者・加藤陽子東京大学教授は、あるマスコミの取材に対してこのようなコメントを寄せている。

「・・・当方としては、やはり今回の菅内閣の、十分な説明なしの任命拒否、また一度下した決定をいかなる理由があっても覆そうとしない態度に対し、その事実と経過を歴史に刻むため、"実"を取ることはせず、"名"を取りたいと思った次第です」

久しぶりに「凛とした佇まい」を感じた。

もちろん、他の5人の研究者が連携会員、特任連携会員となったことを否定するつもりは毛頭ない。2人は連携会員としての任期が2023年まで残っていたというし、加藤教授も前述したコメントの中で「・・特任連携会員に推薦された3人の、まことに力のある専門家の方々を欠いた第1部の法学関係の皆様の苦境を思うと、特任連携会員として、お努めを果たそうとするお考えを持つ方が現れるのは本当によく理解できます。ただ、幸いに歴史系で任命されなかったのは当方一人であるという事を考え、また、多くの優れた歴史系の会員が奮闘されている現状に鑑み・・」と述べている。

先月4月26日、この6人の研究者は、任命拒否の理由を明らかにするため、内閣府や内閣官房に、行政機関が保有する個人情報をみずからが請求する「自己情報開示請求」を行った。

理由を明らかにしない会員の任命拒否は、透明性や公平性の否定にあたる。政府は、会員の選考基準である「優れた研究又は業績がある科学者」に照らして、この問題の本質である任命拒否の納得できる理由を明らかにする責任がある。

この課題は、学者・研究者の世界にとどまらない危険をはらんでいる。学問の自由は言論・表現の自由に直結し、結果的に国民の思想の自由につながっていく。多様な価値観での議論の機会を閉ざしてはならない。

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