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前理事長コラム
『時代を見つめる』
古賀 伸明

「Mr.イエロー・ブルースとセラピードッグたち」

File.672021年7月21日発行

1976年単身渡米し今年で45年。「Mr.イエロー・ブルース」の愛称で、全米で活動する大木トオルさん。

大木さんは1968年からブルースシンガーとして日本で活動をスタート。しかし、5年後結核に倒れ闘病生活に入る。「闘病は自分を変える。今までやってきたことが何だったのか?よしそれじゃ、自分がこだわっている音楽の国のアメリカに一度渡ってみよう。そうすれば、自分で納得するだろう、けじめがつくだろうという気持ちでアメリカに渡った」と、後のインタビューで答えている。

大変なご苦労があったと思うが、数年後にはご自身のバンドを結成し全米ツアーを成功させる。そして、ブルースの聖地であるミシシッピ・デルタ・ブルース・フェスティバルに東洋人として初めて出演する。東洋人として初めてと言えば、日米の音楽の架け橋としての活動が認められ、ミュージシャンで初めて米国の永住権を得たのも大木さんだ。

彼はもう一つの顔を持つ。国際セラピードッグ協会と大木動物愛護協会の代表でもあるのだ。

米国の医療現場でセラピードッグが活躍しているのを目の当たりにし、ご自身の子どもの時の愛犬との経験も含め、ライフワークとしてセラピードッグの育成・普及と動物介在療法のパイオニアとして活動を続けることになる。

しかも、セラピードッグ先進国では、血統書付きの大型犬が一般的だが、大木さんは殺処分寸前の捨てられた犬たちや被災に合った犬たちを、セラピードッグに育て上げるという極めて重要で意義のある取り組みをされている。

そこには、日本で初めて育てたセラピードッグ「チロリ」の存在が大きい。チロリは殺処分寸前に救出した小型の雑種犬だ。この運命的な出会いにより、捨て犬・捨て猫の「殺処分ゼロ」を目指す運動にも取り組んでいる。

2006年に生涯を終えたチロリ。2007年には多くの高齢者や障がい者への貢献を称え、東京都中央区銀座の築地川銀座公園に、名犬チロリ記念碑が建てられた。

「命あるものは、幸せになる権利がある」、このことをチロリが身をもって私たちに残してくれた熱い思いと大木さんは言う。2004年からは、セラピードッグ育成のためのチャリティ・コンサートもスタートさせた。

私は大木さんの活動に、ほんの少し関わらせていただいただけだが、講演会やチャリティイベントに声をかけていただく。7月上旬も3回目の緊急事態宣言が解除された時期、順延していたイベントに参加し、久しぶりに大木さんの元気な姿に接した。チャリティ・コンサートでブルースを熱唱しお疲れだったと思うが、その夜にはお礼の電話もいただいた。

大木さんとセラピードッグたちは、「生命の尊さ」のみならず、「生きることの尊さ」という人間にとって根源的なことを、私たちに改めて問いかけている。

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