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前理事長コラム
『時代を見つめる』
古賀 伸明

「政界一寸先は闇」

File.692021年9月15日発行

このコーナーでは、政治に関するテーマは意識的に避けてきた。しかし、一国の宰相が突然に退陣を表明したこともあり、今回はお許しをいただきたい。

安倍晋三首相の長期政権を引き継ぎ、自民党国会議員の圧倒的な支持で誕生した菅義偉首相。内閣発足当初のある世論調査では、支持率が70%を超えた。

その約1年後、無残な退陣劇といったら言い過ぎだろうか。どう考えても追い詰められての幕引きとしか思えない。「総裁選への立候補は当然」と言い続けていただけに驚きであった。

新型コロナウイスの感染拡大、4月の衆参3選挙での自民党惨敗、そして8月22日、お膝元の横浜市長選挙にて全面的に支援した首相の最側近の候補者が大敗すると、「選挙の顔」としての首相の求心力は一気に低下した。

自民党が総裁選の日程を決めた8月26日、岸田文雄前政調会長が出馬会見し、事実上の「二階幹事長更迭」を示唆した。首相は30日、それを争点化しないため任期切れ直前の異例の党役員人事の刷新を決めた。そして、総裁選を先送りするための衆議院解散まで検討されたという。

新型コロナウイルス感染爆発でも入院できず、自宅療養で亡くなる人が増えていき、ワクチンも約束されたペースでは行きわたらず、菅政権を根底から揺さぶった。

何よりも、このような危機的な状況であるからこそ求められている丁寧に説明を尽くす姿勢に欠け、残念ながら、国民とのコミュニケーションが欠如していた。

奇策としか思えなかった自民党役員の人事権と衆議院解散権という首相の権力、この二つの権限が奪われてしまったら、退陣しか選択肢は残ってない。ご本人も再選は難しいと判断したのが実態だと思う。

日本で五輪が開催された年は、首相が辞任するというジンクスがあるという。
1964年東京五輪の時は池田勇人首相、72年の札幌冬季五輪は佐藤栄作首相、98年長野冬季五輪は橋本龍太郎首相がそれぞれ五輪終了後、理由は様々であるが年内に退陣している。菅首相もこのジンクスは破れなかった。もちろん直接の因果関係はないが、不思議な現象だ。

今回は、衆院選の直前に総裁選をやるという極めて異例な事態である。逆に、総選挙が近くなければ、首相の退陣もなかったかもしれない。

その自民党総裁選の構図も固まりつつあるが、菅首相退陣は直後の総選挙で政権を維持するための、自民党のしたたかさといえるだろう。

野党にとっては「支持率が低下している菅首相での選挙は戦いやすい」と思っていたことが逆風となっている。いうまでもなく、総選挙での野党の真価が問われる。

まさに「政界一寸先は闇」とは、よくいったものだ。

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