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前理事長コラム
『時代を見つめる』
古賀 伸明

「WHO IS BANKSY?」

File.742022年2月14日発行

現在、東京・原宿で開催され、3月から北海道・札幌で行われると聞く「バンクシー展」。

私は昨年2021年12月、コロナ禍のため人数制限もあったが、閉会間際の東京・天王洲での「WHO IS BANKSY?」展に出かけた。

私がバンクシーの名前を知ったのは、3年ほど前、英国・ロンドンでバンクシーの絵画「風船と少女(Girl with Balloon)」が100万ポンド(約1.5億円)で落札された瞬間に、額縁に仕込まれていたシュレッダーで、絵画の下半分がズタズタの短冊状に切断されたという報道を目にした時だ。

後に、この作品は「愛はゴミ箱の中に(Love is the Bin)」と改題され、ドイツの美術館で展示された。昨年21年には、英国の競売に再び登場して、なんと20億円近くに値上がりして驚いたことを思い出す。

日本では18年、東京・江東区にある「日の出駅」近くの防潮堤に描かれた傘を差しながらカバンを持っているネズミの絵が、「バンクシーの作品ではないか?」と連絡があり、東京都は、盗難などの騒ぎになるのを避けるため、そのパネルを倉庫に保存した。

天王洲の展覧会ではバンクシーの作品を、ほぼ実物大で映画のセットのように、実際の街並みをつくりだしていた。英国の街角を再現するため、現地のごみ箱を取り寄せたそうだ。

代表作である前述の「風船と少女」の絵のそばに、誰かがTHERE IS ALWAYS HOPE(いつだって希望はある)と書き添えた作品や、ベツレヘムの街の壁に描かれた「フラワー・スロア」、怒りを花束という愛の象徴にコラージュし、パレスチナ自治区に投げる青年の絵も再現されていた。

英国南西部の港町ブリストルの出身とされるバンクシーは、素顔や本名、年齢などを明かさない覆面アーティストだ。正体不明で誰だか分からないという謎に包まれていることも、魅力を増している。

1990年代からグラフィティ・ストリートを始め、現在では世界各国に現れては、誰にも気づかれずに知らない間に、ステンシル(型紙)とスプレーで描き上げ立ち去る。ストリートアートは違法のものも多く、消された絵もあるという。

バンクシーが注目されるのは、グラフティアートに込められた明確で強いメッセージ性である。作品の多くは社会風刺的なダークユーモアに溢れたものが多く、社会的、政治的な存在であり、「芸術テロリスト」とも呼ばれている。

コロナ禍の中で改めて顕在化した、社会情勢や貧困問題、経済の格差や不寛容、難民問題、人種差別、弱者への無関心といったさまざまな問題を生みだしてきた現代社会に対して、世界中に警鐘を鳴らしている。

バンクシーのアートは、世界で起こるさまざまな課題を、正面から見据えて行動すべきとの強いパワーを、私たちに発信しているのだ。

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