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前理事長コラム
『時代を見つめる』
古賀 伸明

即時に作戦を中止し、攻撃を停止せよ

File.752022年3月 1日発行

ウクライナの首都キエフを訪れたのは、2006年秋と2015年初夏の2回。
欧州での国際会議の前後に、在ウクライナ日本大使館に連合から派遣された外交官、いわゆる連合アタッシュの激励のためだった。

1500年の歴史を持ち、ドニエプル川を挟んで広がっている「森と緑の都」といわれるキエフは、美しく落ち着いた街であった。そのキエフは今、市街戦となっている。

2月21日、プーチン大統領はウクライナ東部の親ロシア組織が支配する、ルガンスク州とドネツク州の二地域の「独立」を一方的に承認した。そして、24日、その地域で起こっている住民のジェノサイド(集団虐殺)を防ぐことを理由にウクライナに侵攻した。しかし、ロシア軍の攻撃は東部、南部、北部の3方向から全土に広がり、現在は首都キエフを巡る攻防となっている。

国連安全保障理事会・常任理事国であるロシアも参加して制定した国連憲章や国際法の明確な違反である。ウクライナの主権も無視した、あからさまな侵略行為にほかならない。二度の大戦を経てつくりあげてきた国際秩序を根底から揺るがす、常軌を逸した蛮行であり断じて容認することはできない。

しかも、これは米欧とロシアの勢力圏の争いではなく、国際社会が認識すべきは、世界にとって共通の脅威であるということだ。自由民主主義と強権主義という世界の分断を浮き彫りにし、国際社会は東西冷戦終焉後、最も深刻な危機に直面している。大国による露骨な暴力行為を制御できなければ、法とルールに依拠する国際秩序は保てず、民主主義を著しく後退させる危機に陥る。

国際社会の結束が今ほど求められている時はない。侵略を許さない強固な意思表示と、暴挙を止める具体的方策を不退転の決意で打ち出し、断行しなくてはならない。世界秩序の将来は、ウクライナ危機への対応にかかっている。

ロシアのさらなる専横を看過すれば、アジアや中東でも軍事力に訴える国が出てくる。中国の台湾戦略にも大きく影響することは必至だ。

一方では、ロシアへの制裁を厳しく続けるとともに、外交努力を途絶えさせるのは得策ではない。対話のチャネルは常に開いておくことが重要だ。また、最大500万人の難民が出る可能性もあるという。各国の人道支援も早急な対応が求められる。

プーチン氏の身勝手な思想や歴史観で、ロシアが力による現状変更への動機を強めたのは、米国の国際社会での指導力が衰えていることが背景にあることは否めない。この現状を真摯に受けとめ、日本を含む米国と協力関係にある国々は、これからの国際秩序を守っていくための知恵を出し合うことが重要だ。

ロシアは高い代償を支払うことになる。国際社会から孤立し、失うものが大きいことを、プーチン氏やロシア国民は早く気づくべきだ。

即時に作戦を中止し、攻撃を停止せよ。

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