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前理事長コラム
『時代を見つめる』
古賀 伸明

「祈りの月」

File.802022年8月23日発行

8月は祈りの月。

6日は広島に原子爆弾が投下され、9日は長崎に。そして15日は終戦の日を迎えた。死者は三百数十万人に及ぶ。改めて、国内外で戦禍を被った多くの犠牲者に哀悼の意を表し、平和への誓いを新たにしたい。

今年は例年と異なり、ことのほかその思いを強くする。

戦後77年、世界は二度の大戦のような総力戦の戦争をかろうじて回避してきた。しかし、世界に平和とグローバル化の恩恵をもたらしてきた戦後秩序は脅かされており、国際情勢は厳しさを増している。

ロシアがウクライナに侵攻して半年が経過するが、未だ終結しないどころか、長期化の様相を呈している。また、ロシアは「国益が損なわれるなら核兵器を使用する」という方針を明らかにし、核兵器の使用までちらつかせている。

一方では、8月2、3両日のペロシ米国下院議長の訪問をきっかけに台湾を巡る緊張が高まる。中国は米国との覇権争いも激化し、台湾への軍事圧力を一段と強め始めた。台湾近海で大規模な軍事演習を行い、数発のミサイルは日本が主張する排他的経済水域(EEZ)内に着弾した。

また、年初以来、北朝鮮はミサイル発射を繰り返し、核実験の可能性も取り沙汰されている。ロシアは日本と北方で国境を接する国でもあり、日本は三つの核保有国と隣合わせの国だ。

8月末まで開催される、核の拡散を防ぎ、軍縮を進める唯一の包括的な枠組みである核拡散防止条約(NPT)の再検討会議の成功を期待したい。

ロシアのウクライナへの軍事侵攻を受け、各国は抑止力を強化しようと軍事費の増額を次々と打ち出した。しかし、軍拡競争はそれ自体が戦争の脅威を高めることになる。

戦争で犠牲になるのは、結局は普通の市井の人たちであり、個人の生命も自由も民主的なプロセスもかえりみられなくなる。

グローバル化、新型コロナウイルス感染、世界的な資源高などにより、社会の分断が広がり人々の不満が各国に蓄積される。どの国も時の政権と世論が一方的にかたより暴走してしまう恐れは免れない。

日本には民意に応えられず、戦争を防げなかった政治と民主主義の未熟さが大きな教訓として残っている。平和国家として軍事力を抑え、唯一の被爆国として核不拡散体制を推進してきた日本だからこそ果たせる役割があるはずだ。

大戦後の国際秩序が揺らぐ中、力が支配する世界に逆戻りさせない道筋を、各国の知恵を集め早急に見出さねばならない。

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