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前理事長コラム
『時代を見つめる』
古賀 伸明

「ウクライナ危機と民主主義」

File.812022年9月21日発行

中国とロシアが主導する上海協力機構の首脳会議が、中央アジアのウズペキスタンで9月中旬に開催された。この報道を見ながら私の思考は、ウクライナ危機へと転じ、二つのことが思い出された。

一つは、国連決議である。3月の国連のロシア非難決議に賛成したのは141カ国に上ったが、経済制裁に加わっているのは37カ国に止まっている。

4月の人権委員会でのロシアの資格停止決議では、BRICSのうちロシア以外の中国は反対票、インド、ブラジル、南アフリカ共和国は棄権票を投じた。このうちインド、ブラジル、南アフリカ共和国は通常、民主主義国とされているが、対ロ制裁に参加していない。

これらの国々の中立志向の動機はさまざまである。ロシアへの経済制裁に伴うエネルギー価格や食糧価格の上昇に大きく影響を受ける国々。欧米から人権問題で非難されてきた国々の反感。中国との貿易関係の深まりを背景に棄権を選択した国もあっただろう。

ロシアのウクライナ侵攻は、国際秩序を根底から覆している。"米欧日ブロック"と"中露ブロック"の輪郭が明確になるほどその対立は単純なものでもなく、そのどちらかを選択することを回避する国々も明らかになりつつあるのだ。

二つ目は、シンクタンクV-DEM研究所の報告である。V--DEMは民主主義の多様性(Varies of Democracy)を意味する。この研究所は本部をスウェーデンにおき、世界の民主主義の度合いをさまざまな指標で比較する機関だ。

今年の報告書によれば、2021年時点で権威主義体制の国は90カ国に増え、世界人口の7割(54億人)がその下に暮らしており、民主主義体制の国は89カ国で、人口の29%しかカバーしていない。

民主主義体制の国の中でも、法支配や個人の権利が守られている自由民主主義の国は、2012年には42カ国あったが、2021年には34カ国(世界人口の13%)まで減少したというショッキングな報告だ。民主主義国家は世界的には少数派なのだ。ちなみに日本は28位。

民主主義は決して効率の良い意思決定の仕組みではない。しかし、ひとつの意見が絶対的になることは避けられ、少なくともさまざまな人の意見が反映されることで、議論が一方的な方向に突き進むことは防がれる。

なによりも、何かを決める時に、みんなで議論する過程そのものに意味がある。自由かつ平等な異なる価値観の議論を通じて、新たな共通の価値をつくりあげていくことが民主主義の最大の強みであるからだ。

そのための一人一人の不断の努力と実践が重要なことはいうまでもない。

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