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昆虫カタストロフィから人類カタストロフィ

戸塚 鐘2019年8月26日発行

 連合総研は働く者のシンクタンクであるので、労働に関わる諸課題をテーマにすることが多いが、今回の視点では、そもそも人間が働く(生きていく)上での大前提である地球環境の問題に関連した話題に触れさせていただきたいと思う。

 Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)、略してSDGs。

 SDGsは2015年9月の国連サミットで採択され、国連加盟193か国が2016年から2030年の15年間で達成するための17のゴールが設定されている。設定されているゴールは、貧困や飢餓、健康や教育、経済成長など様々であるが、環境問題に関連したゴールも設定されている。国連のホームページではSDGsは「すべての人々にとってよりよい、より持続可能な未来を築くための青写真」と記述されているが、持続可能な未来を築くためには人類以外の存在も持続可能なことが必要であろう。

 実は今、全昆虫種の40%が減少傾向にあり、3分の1が絶滅の危機に瀕していると言われている。昆虫類は約100万種が存在すると言われているので(哺乳類は約6,000種、鳥類は約9,000種)、およそ30万種の昆虫種が絶滅の危機にあるということになる。

 そういえば、私の周囲でも昆虫が少なくなっているように感じる。この夏、童心にかえりカブトムシやクワガタを探しに出かけたのだが、ほとんど見かけなかった。私の住む地域には里山が残っている場所があり、クヌギなどのカブトムシやクワガタが採れる樹があるのだが、そもそも樹液に集まっている昆虫の種類が少なく感じた。今年の夏は長雨の影響もあり昆虫が少ないのかとも思っていたのだが、先日見たNHKスペシャル「香川照之の昆虫やばいぜ」という番組でも「あと100年で昆虫は絶滅する」と研究者の間では言われており、「昆虫カタストロフィ」が現実になりつつあるということを紹介していた。カタストロフィ(catastrophe)は「悲劇的結末」と訳されるが、小動物の餌としての昆虫、植物の受粉、死骸や糞などの分解といった昆虫が果たしている役割が機能しなくなることで生態系が破壊され、最終的には人類の生存にも影響がおよび「人類カタストロフィ」につながるというのだ。

 SDGsの15番目のゴール「陸の豊かさも守ろう」の中には生物多様性という項目があるが、そこには「微生物と無脊椎動物(昆虫もここに含まれる)は、生態系サービスにおいて鍵を握る存在ですが、その貢献度はあまり知られておらず、認識されることもほとんどありません」と記載されている。実は昆虫は私たちが考えている以上に自然界で大きな役割を果たしているようだ。その一方で食糧危機に関連するSDGsのゴールにおいては「昆虫食」の推進に向けた取組みが見られる。昆虫食のために乱獲されてますます数が減ってしまわないか心配でもある。

 結局、昆虫が減っているのは、大規模農業、都市化、温暖化など、人類の活動が原因である。貧困や飢餓がなくなり、誰もが安心して暮らせる世界となることは重要なことであるが、そのための活動の傍らで消えていく存在がいることも知っておかなければならないだろう。昆虫が消えた世界では人間も消えてしまうかもしれないのだから。

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