連合総研

連合総研は働く人達のシンクタンクです
JTUC Research Institute For Advancement Of Living Standards

文字サイズ

研究員
の視点

短時間労働者の社会保険の適用拡大の意義を考える

平川 則男2019年11月 6日発行

 現在、政府においては、年金の財政検証にあわせて、年金制度改革の議論が進められています。その最大の課題の一つが、短時間労働者への社会保険の適用拡大です。しかし、どうしたことか、本来撤廃するのが当然である企業規模要件(従業員501人以上)を、企業規模を圧縮するとは言え、存続しようとしています。

 厚生年金は本来、すべての労働者を対象とすべきことが原則で、同じ労働をしているにもかかわらず、企業規模や労働時間、事業所の種別などで、厚生年金が強制加入とならないのは、社会正義に反するのではないでしょうか。以下、拡大の意義について整理してみました。

1.厚生年金と国民年金
 国民年金は、所得捕捉が難しいことや自営業者には定年が無いことなどを前提として作られた制度ですが、事業主の都合により所得捕捉が可能にもかかわらず、厚生年金が非適用となり国民年金となるのは問題です。実際、現制度で厚生年金への適用拡大対象者となった方の、37%が国民年金1号だったとの結果が出でいます。

 また、短時間労働者のうち、自らが主たる生計維持者となっている(主 に自分の収入で暮らしている)者の割合は約 3 割に達していて、若年層の非正規 雇用者の約 4 割が正社員への転換を希望しているなど、短時間労働者に多い非正規雇用の労働者についても被用者としての保障の体系に組み入れていく必要性は高くなっています。

2.就業抑制効果の影響は少ない
 JILPT(独立行政法人労働政策・研修機構)の調査によると、前回の年金制度改正で適用拡大の対象となった方の8割は働き方に変更は無く、変更したとしても労働時間を長くした方が半分以上となっています。一部の意見としてある就業抑制の効果は限定的と考えられます。

3.老後の生活保障
 厚生年金適用と国民年金では、老後生活に大きな差が生じます。厚労省が示したケースでは、厚生年金加入20年、月収8,8000円のケースの場合、老齢年金月額13,000円の違いが生涯にわたり生じることが示されています。今後も、マクロ経済スライドにより、年金の実質価値の低下が進む中においては、厚生年金に加入できるか否かは、働く者の老後にとって極めて重要です。

 また、厚生年金適用により、国民年金から厚生年金に移ったグループのうち、国民年金の保険料免除者や未納者が一定数存在することが分かっています。これらは、将来、無年金もしくは低年金者となる可能性だった者で、厚生年金適用によって、将来の老後の生活保障が一定確立されたといえます。

4.厚生年金の財政効果や年金財政検証による試算から
 制度的な年金の適用拡大、年金機構による適用の促進、女性や高齢者の就業率の向上により、厚生年金の被保険者数が推定を大きく上回り、厚生年金財政に貢献しています。20199月に公表された年金財政検証では、適用拡大は年金の所得代替率の低下を緩めることが示されており、支えあいの拡大が、日本の社会保障の持続可能性を高めることとなります。

5.労働市場も直視し、公正な競争と持続可能な社会を
 老後の生活不安が高まる中にあって、厚生年金に加入できるかどうかは極めて重要との認識が広がっていることに加え、労働市場が切迫する中にあって、労働者が企業を選択する場合、厚生年金に加入できるか否かは大きなポイントとなっている可能性があります。加えて、適用拡大を進めないことは、将来の低年金、無年金者を再生産することになり、結局はその矛盾を社会全体に押し付けることになります。例えば、政府は就職氷河期世代に対する支援策を開始していますが、完全なリカバリーには至っていないのが現状ではないでしょうか。

6.非適用事業所
 理容・美容やクリーニング、弁護士事務所、5人以下の個人事業所は非適用事業所とされ、フルタイムで働いていても厚生年金に強制適用されません。これは全く理屈が無く、当然、厚生年金の適用事業所とすべきです。

7.日本年金機構の体制強化の重要性
 日本年金機構は、国税源泉徴収義務者情報により、効果的に未適用事業所(厚生年金適用逃れなどをしている事業所)を把握し対策をした結果、約250万人が新たに厚生年金に加入しました。しかし、厚労省によると、現制度下でも、156万人が厚生年金に適用されていないとの推計があります。制度改正による適用拡大が進めば、年金機構による適用促進対策はますます重要になります。日本年金機構の体制強化が必要です。

 今回、制度改革を逃すと、次の検討は5年先ということもあり得ます。政府は、本気になって適用拡大を検討すべきです。

≪ 前の記事 次の記事 ≫

PAGE
TOP