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孤独死と向き合う~映画「おみおくりの作法」

麻生 裕子2019年11月28日発行

 先日、観たいと思いながらその機会を逃してしまった映画をようやく観ることができた。数年前に日本でも公開された「おみおくりの作法」(原題STILL LIFE、イギリス・イタリア、2013年)である。この映画はフィクションだが、監督がロンドン市内の民生係の仕事を綿密に取材して生まれた作品だという。そのためか、孤独死という難しい社会問題が一人の公務員の視点を通して実に上手く取りあげられている。

主人公のジョンは、ロンドン・ケニントン地区の民生係。孤独死をした人たちを弔う仕事をしている。ジョンの仕事ぶりはきわめて几帳面で、部屋に遺された写真から家族やかつての友人・同僚を探し出し、葬儀があることを知らせに会いにいく。たとえ葬儀の参列者がいなくても、ジョンだけは死者が歩んできた人生に最後まで寄り添う。しかし、ジョンの仕事は手間と時間がかかりすぎると、上司から解雇を宣告される。ジョンは、残された時間で最後の仕事に取りかかるのだが・・・。

映画を観終わって、舞台がイギリスだけに、戦後社会保障制度の基礎となったベヴァリッジ報告のスローガン「ゆりかごから墓場まで」を思い出した。この言葉は、生まれてから死ぬまでの一生にわたって国家がすべての国民に最低限の生活を保障するということを意味している。この映画でいえば、まさに文字どおり「墓場まで」である。孤独のまま死を迎えた人たちに対して、行政はどこまで責任を果たすべきなのか、あるいは果たすべきだったのか、とあらためて考えた。もちろんイギリスだけでなく、日本にもあてはまることだからである。

とくに、ジョンの上司がジョンに対して投げかけた言葉は強く印象に残る。「葬儀は死者のためのものじゃない。弔う者がなければ不要だ。残された者にしても葬儀や悲しみを知りたいとは限らない。」ジョンは「そう考えたことは一度もない」と答える。すると上司は追い討ちをかけるように「とにかく死者の想いなど存在しないんだ」と言う。

 本当にそうだろうか。まずは、ジョンのように、孤独のまま死を迎えなければならなかった人たちの目線に立ってみることが大切だと思う。また、それ以前に、社会から孤立した状態にならないように人と人とのつながりをつくる役割こそが重要であるともいえる。しかも行政だけがそうした役割を担うべきというわけでもない。生きている間の人と人とのつながりという点では、労働組合や協同組合、NPOなどの社会運動セクターの出番はまだまだたくさんある。

 ちなみに、まだ映画を観ていない方のためにネタバレは避けるが、ラストシーンにはわずかながらも希望と救いがあるように感じられた。

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