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の視点

3年間の変化の中で感じたこと

松井 良和2020年3月31日発行

 連合総研に着任してから早や210ヶ月、約3年の月日が流れた。この間に様々な経験をし、自分自身にもいくつかの大きな変化があった。自分の中の大きな変化の1つが、ボランティアを始めたことだった。

 公助、共助、自助といった「助」が付くものの中でも、近年、互助という言葉が注目を集めているように思う。互助とは端的には、人々の助け合いを意味することになるだろうが、この互助が注目を集めていると聞いたとき、違和感を覚えたことがあった。子供の頃、社会の授業の中で地域社会の崩壊が深刻なものになっていると耳にしてきたせいか、今になって互助が大事だといわれてもピンとこなかったのである。

 そんな自分がボランティアを始めたのは、ずっと同じ市に住んでいるにもかかわらず地域のことを全く知らないとふと思い、15年も同じところに住んでいるなら少しは市のことを知りたいなという単純な好奇心がきっかけだった。地域社会が崩壊しているといわれる一方、互助が大事だといわれる矛盾を自分の中で解消したいという思いもどこかにあったかもしれない。

 最初は地域の清掃から始めて、徐々に自分の関心に近いボランティアを探っていき、現在は東京都多摩市にある無料塾でボランティアをしている。現在、ボランティア登録をしている無料塾では、何らかの理由で不登校になった方を対象に、高卒認定試験全科目合格を目標に学習支援を行っている。その塾では、個別指導をモットーにしていて、講師と生徒の都合が合う日に予定を合わせてお互いのペースで授業を行っている。

 入塾する理由は生徒によって様々だ。学び直しをしたい、行きたい学校がある、理由は色々あるけれども、中には、どうしても就きたい職業があるから入塾したという生徒もいる。自分が授業を担当した生徒には、将来、友達と起業したい、そのために高卒の資格を取って就職してノウハウを身に付けたいという夢を持った人もいた。見事、全科目合格を果たし、夢に1つ近づいた人がいるとやりがいを感じる。

 無料塾に通う生徒は、仕事をしながら勉強を続けている人も少なくない。そんな生徒の1人が話したことが忘れられずに、ずっと心の中で引っかかっている。その生徒はこんなことを言っていた。「塾で勉強を教えてもらってとても感謝している。でも、社会に出て知っておかなければならないマナーみたいなものも教えてほしい」と。

 そう感じたのは、送られてきた自分宛の郵便物の中に返信用封筒が入っていたが、どう返していいか分からなかったからなのだそうだ。その他にも、授業の合間に今やっている仕事について話すことがあるが、1日の法定労働時間や休憩、年次有給休暇のことなど働く上で必要な知識を全く知らないと話していた。

 その生徒は、マナーや働く上での基本的知識を教えてほしいと言っていたが、よくよく考えてみると、自分だっておじさんと呼ばれるようになる歳になっても知らないことばかりだ。知っていることは、他の人のマネをしたり、誰かに聞いたり、自分で調べたり、そうやって少しずつ身に付けたものだ。しかし、塾に通っている生徒には少しずつ少しずつ学ぶ時間もなく、1人で生きていかねばならない人、働いていかなければならない人もいる。

 将来のためには、資格や学歴を得るための勉強も大事だが、生きていくための知識も重要ではないだろうか。現在ではワークルール教育も多く行われているものの、お金のこと、マナーのことなど、日々の生活に必要なことを小さいころから教えてくれる場がもっとあってもいいように思われる。定年退職を迎えた高齢の方が昔の遊びを子供たちに教えてくれる機会はあるが、こうしたことと併せて、日々の生活で必要な常識やマナーを教えてくれる機会があってもいいのではないだろうか。

 こうした場は学校に限られず、地域の公民館や図書館、場合によっては空き家になった古い民家を利用するなど、様々な場が考えられる。常識やマナーを教える人も、色んな年齢層が考えられる。あるとき、自分のような3040歳代の男性は暇な時間に何をしているのかと聞かれて、ウーンと唸ってしまった記憶があるが、教える機会を通じて家族や親族以外の子供たちと触れ合うのも、新しいアイディアを生み出すための良い経験になるかもしれない。

 今はコロナウィルスが猛威を振るっており、人が集まることは自粛しなければならないし、人々の間にも周りを見渡す余裕はあまりない状況にある。でも、ウィルスが沈静化してきて、周りを見渡す余裕が少しできたときには、助けが必要な人に手を差し伸べる社会であってほしいと思う。

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