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働きに見合った賃金とは?~新型コロナ・ショックの中で改めて考える~

石黒 生子2020年8月 5日発行

 私は学校を卒業後、スーパーで働き、スーパーの企業別労働組合から、産業別労働組合、連合へと労組役員を務めてきた。そのスーパーで働く仲間たちが、新型コロナウイルス感染のリスクにさらされながら日々店舗へ出勤し、毎日ストレスと戦いながら働いていることを思うと、大変つらい。さらに医療・介護・商業・運送など生活を支えるエッセンシャルワーカーの中には、最低賃金ぎりぎりの時給で働いている労働者も多くいる。

 「スーパーのレジのパートでもやるしかない」という言葉に示されるように参入しやすい職種ではあるが、よりよいサービスのためにはかなりの熟練が必要となる。しかし、一般にその熟練が賃金に反映されていないことも多い。私はこの産業の不人気による慢性の人手不足と賃金実態をはじめとする労働条件について、長らく疑問を感じてきた。「職業には貴賤はない」「働きに見合った賃金」という時、職種別の賃金の大きな格差は一体どこから生じるのだろうか。これはいまだに私の中で解が見いだせないでいる。

 「同一価値労働同一賃金」は、本来、同一企業における雇用形態間の違いを対象にした「同一労働同一賃金」ではなく、職務評価などにより異なる職種間の職務の価値を計り、不当に低賃金に置かれることなく、文字通り「働きに見合った賃金」に実態を見直していく取り組みである。ILOの仕事の価値を測る要素は、①知識・技能、②精神的・肉体的負荷、③責任、④労働環境の厳しさなどであり、ヨーロッパを中心にこれらの要素により職務分析が行われ、同一価値労働同一賃金の取り組みが進められてきた。

 今までは新型コロナウィルスへの感染リスクという危険の要素がなかったため、特に介護・流通・運輸などの職種は、労働環境の厳しさという項目の中で、大きな危険を伴う職種の中には含まれていなかった。しかし、今後も繰り返されると予想される災害や感染症の際に、生活を守るエッセンシャルワーカーのリスクについても勘案して、労働の価値を検討していくことが必要ではないだろうか。私たちは、彼ら彼女たち、エッセンシャルワーカーとしての使命感に頼り「ありがとう」と感謝するだけではなく、感染防止対策はもとより、賃金などの労働条件を引き上げていくことも政策的に行っていくことが急務である。

 この新型コロナ・ショックは、女性や非正規労働者などの低賃金・不安定雇用などより劣悪な労働条件の労働者が大きく影響を受けている。やはり女性の多い職種の労働の価値は不当に低く考えられているという実態を改善していく必要をこの機会にますます強く感じた。従来から賃金が高く在宅勤務が可能であり雇用も賃金も守られている労働者と、低賃金・不安定雇用で、在宅勤務が不可能で感染リスクも高い労働者との格差は、新型コロナ・ショックによりますます大きくなってきている。この格差は社会の不安定を生み、日本国内のみならず世界中で紛争の元となる可能性も高い。

 これまで、国際社会は「だれひとり取り残されない社会」に向けて連帯を目指してきた。その中で貧富の格差や貧困の存在は大きなリスクであると早期の解消を目指してきたが、この新型コロナ・ショックにより、さらに格差が拡大することが予想される。新型コロナ・ショックは早期に解決していくべき課題とされてきた最も弱い立場の労働者を直撃する事態となった。

 やはり、課題を先送りしてはならない。この新型コロナ・ショックを乗り切り、アフターコロナ時代には、今までよりも働く者にとってよりよい社会に、そしてすべての人々が貧困から解放され、だれひとり残されない社会へと変革していくという視点をももって、これからの政策を検討していく必要があると思う。そのひとつとして、エッセンシャルワーカーを含め低賃金で働かなければならない人がいなくなるように、最低限の生活保障としての最低賃金の引き上げをおこない、働く者ひとり一人が納得できるような「働きに見合った賃金」「同一価値労働同一賃金」への取り組みをおこなっていくことも必要ではないだろうか。

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