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児童相談所の権限と人材について

副所長 平川則男2020年10月21日発行

 先日、出身産別である自治労が主催した、「くらしとこどもの福祉を考える全国集会」にWebで参加した。この集会は、全国の地方自治体の福祉事務所(生活保護の事務を実施する)と児童相談所に勤める組合員が参加し、それぞれの立場から、よりよい行政サービスのあり方や、制度改革について議論する場となっている。

 そのうち、児童相談所は、業務の緊張感と多忙さが加速し、困難を極めていることが話し合われた。

 それまでも、児童相談所には、年々増加する児童虐待への対応とともに、子どもに虐待をした親が子どもを取り返そうと脅しに来たり、児童相談所の所長や職員を裁判で訴えたり、果ては、子どもが児童相談所に誘拐されたとして警察に駆け込み警察が児童相談所を家宅捜索する事態もあった。近年は、このようなことに加え、児童虐待に対する社会の関心の高まりの中、虐待通報が劇的に増え、警察からも、DV関連や虐待の疑いについての通告が頻繁にあるなど、現在の実施体制では児童虐待への対応に手が回らないのではないか、という懸念が高まっている。

 昨年の通常国会では、相次ぐ児童虐待による死亡事件により、児童虐待防止法改正案の審議が行われ、児童相談所の体制強化が話し合われた。国会審議の動向を見ると、ほぼ全ての政党が児童相談所の体制強化の必要性を訴えていたものの、とにかく人員を増やす、財源を確保するという議論が中心であった。もちろん、児童相談所の体制強化には、人員増や財源の確保は極めて重要であり、児童福祉司は、2017年度の3,235人から20204月には4,234人まで増員されているが、それだけで事足りるものではない。

 重要な要素に、専門性の確保がある。親が本当に虐待しているのか、場合によっては子どもの安全確認などの臨検を実施するのか、本当に施設入所や里親措置などの親子分離をすべきか、子どもの一時保護の継続か親元に戻すのが適切か、という難しい判断が迫られ、もしその判断を間違うと、子どもの生命に関わる事態ともなりかねない状況にある。

 児童相談所の勤務に最も近い専門職として社会福祉士があるが、これとて、虐待の加害者たる保護者対応等についてすぐに力を発揮できるわけではない。社会福祉や児童福祉関連の専門性に加え、上記のような極めて重い権限に関わることの判断や経験が求められている。

 また、児童相談所の設置が、都道府県や政令指定都市、中核市(中核市でも人材や財源の問題から手を上げるところは少ない)に限られているのは、人材育成に関して、小さな地方自治体では厳しいという側面があるからである。もちろん、身近な行政サーピス、特に対人サービスは基礎自治体の実施が望ましいが、現実的には、こうした児童相談所の職員の養成・育成は、一筋縄ではいかない。

 現場からは、「残念ながら毎年過去最高を更新する虐待件数の対応には(児童相談所は)追い付いていなかったのではないか」「児童福祉司の増員を図りたいと現場が思っても、・・・(地方自治体の)財政当局そして人事当局の理解がなければ、通常の行政職の人事ルールではなかなか増員というのは難しいというのが一般的」「ここ数年で児童福祉司の増員図られている児童相談所、大変多いですが、新規採用ですとかあるいは経験のない若い児童福祉司が配置をされる例が多くなっております」との実態も報告されている(2019613日参議院厚労委員会・佐藤参考人(元児童相談所児童福祉司))

 こうしたことから、児童虐待防止法の国会審議における附帯決議で、次の一文が入った。「児童福祉司を始め、児童福祉を担う人材の専門性の向上に当たっては、地方自治体の職員が十分な経験を積み上げることが必要不可欠であることから、当該職員の人事異動等に際し、地方自治体に対し配慮を求めるなど、必要な措置を講ずること」という文言である。

 そんな中、先の集会の講師に、元北海道中央児童相談所長の方が講師に来ていただいた。元所長からは、児童相談所職員に求められる専門性の説明ののち、子どもにとっての児童相談所・職員とは「子どもにとって最後の砦でなければならない」「絶対的に子どもの味方でなければならない」「頼れる大人、救ってくれる大人でなければならない」点を強調されていた。専門職のスキルはもちろんのこと、様々な意欲や信念なども求められるものである。だからこそ、地方公務員という、権限を持ちつつ専門職としてのスキルも同時に求められている。

 昨年の国会の附帯決議から1年経過したが、都道府県などの地方自治体が、児童相談所の実施体制の強化にどう向き合っているのか、検証が求められている。

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