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犬と猫、そのペット飼育事情を探る

多田 健太郎2023年5月29日発行

犬と猫、飼育数が多いのは?

 先日、食事中に時に熱いものが苦手だという話になった時のこと、熱いものが苦手なことを「猫舌」というが、熱いものが平気な場合は何舌というのかが話題となった。その場の結論としては「猫の反対なんだから犬じゃないの」ということで、「犬舌」で皆がとりあえずは納得となった。しかし、後日調べてみるとどうやら犬も熱いものは苦手のようで、「猫舌」の反対が「犬舌」というのは適切ではないらしい。

 それにしても、猫の対が犬というイメージがまず頭に浮かんでくるのは、やはり日本でペットとして飼育される動物のトップ2が犬と猫だからであろう。実際に、日本ペットフード協会が行った「令和4年 全国犬猫飼育実態調査」によれると、現在飼育しているペットの1位と2位が猫と犬であった。また、少し古いデータになるが、国でも飼育されているペットの種類を調査しており、そこでも犬と猫が1位と2位であった(内閣府「動物愛護に関する世論調査」平成22年)。

 そんな犬と猫であるが、少し前に飼育数が逆転し、猫が1位となったニュースが世間の耳目を集めたことをご記憶の方も多いのではないだろうか。「犬舌」について調べる過程で、ふとそのニュースを思い出し、今はどうなっているのかを調べてみた。

 こちらも「令和4年 全国犬猫飼育実態調査」(以降のデータは全て同調査による)によると、犬の飼育頭数が705万3千頭、猫の飼育頭数が883万7千頭と猫が約180万頭の差をつけて多数となっている。傾向として猫の飼育頭数は横ばい傾向なのに対し、犬の飼育頭数は年々減少傾向が続いており、猫が犬を逆転して以降、その差は拡大しているということだった。また、犬が減少傾向、猫が横ばいということで、犬と猫を合算した飼育頭数自体も減少傾向となっている。

犬の飼育数が減少している原因

 犬と猫の飼育頭数の状況は、犬が長らく上位であったため、猫が逆転した2017年には上記のとおり大きなニュースにもなっている(※全国犬猫飼育実態調査の計算方法が2021年から変更となっていることに留意)。私自身も子どもの頃は犬も猫も飼っていたが、大人になってからは猫しか飼っておらず、世間の飼育状況の推移と同じような飼育状況となっている。なぜ、犬の飼育数が減少しているのかを考察してみるに、私自身の経験からは散歩が大変だからというのが理由としてあげられる。飼っていた頃は自分の遊びなどを優先し、犬の散歩が疎かになっており、今でも当時を思い出すと可哀想なことをしたと後悔の念がある。

 私のことはさておき、データ上も犬の散歩の負担はやはりあるようで、ペット飼育の阻害要因として「散歩をするのが大変そうだから」が犬では12.4%となっているのに対し、猫ではそれを理由にあげる人は1.4%にとどまっている。

 それ以上に犬の阻害要因となっていると考えらえるのは、金銭面での負担である。生涯の飼育にかかる費用は、猫の方が平均寿命は長いにも関わらず犬の方が高く、猫は約132万円であるのに対し、犬は約252万円とこちらもの猫の2倍近く高くなっている。2017年からの比較では、猫は22.3%の上昇に対して、犬は57.3%の上昇と犬の方が2倍以上も高くなっている。

 特にえさ代等フードにかかる費用については、体の大きさの問題もあると思われるが、猫よりも犬の方が多くかかっており、とりわけ大型犬+中型犬の区分での上昇が著しい。また、ペットの有償での入手を希望する割合も猫22.9%、犬44.5%と犬の方が高く、予算の上限も猫が14.2万円に対して犬は15.3万円と猫より高くなっている。

 阻害要因として「世話をするのにお金がかかるから」の割合は犬・猫ともに上位で、数字も大きく変わらないことからそれぞれお金がかかることは認識されていると思われるものの、特に生涯に掛かる経費にこれだけの金額の差が出ていることは、犬の飼育頭数の減少の大きな要因となっているのではと考えらえる。もし、家庭内で犬派と猫派に分かれ、どちらを飼育するか意見の対立がある場合には、この経済的な要因は猫派にとって大きな追い風となるだろう。

飼育費用の上昇とその影響

 いずれにしても、特に近年は犬・猫ともに飼育にかかる費用は上昇していることから、そのことが飼い主の経済状態によっては飼育状況に影響を及ぼしていることが考えられる。

 例えば、現在の飼育状況を家族構成別で単身とそれ以外で比較した時に、犬・猫ともに単身の方が飼育率が低い傾向にあるが、これは世話を行う人数の問題に加えて、世帯の収入額が影響していることも考えられる。また、単身と配偶者無し子ありの区分で性別別に比較すると男性の方が飼育率が高い傾向にあるのは、男女間の賃金格差が影響している可能性も考えられる。さらに、飼育費用の上昇が社会全体の物価の上昇と相関関係にあるのかなども、非常に興味深いところである。

 連合総研では、世帯の収入や貯蓄状況、物価の動きなどは、年に2回行っている「勤労者の仕事と暮らしに関するアンケート(勤労者短観)」の中で調査を行っている。最新の2023年4月に行われた「第45回勤労者短観」では、賃金の増加幅よりも物価上昇幅の方が大きいと回答した割合が6割を超えるなどの結果が出ている。また、男女間の賃金格差についても「2022~2023年度経済情勢報告」などで分析を行っている。いずれも連合総研のホームページで内容の詳細を公表しているので、興味がある方はぜひそちらも閲覧していただきたい。

 さて、冒頭の「猫舌」の反対は何舌になるのかの話であるが、インターネットで検索すると「ゴリラ舌」なる言葉がヒットする。実際にゴリラが熱いものが苦手ではないのかは置いておくとして、個人的には猫の対がゴリラというのはこれ如何にと思うところ。やはり猫の対は犬の方がしっくりくる感じである。

「第45回勤労者短観」                                                                 https://www.rengo-soken.or.jp/work/tankan/

「2022~2023年度経済情勢報告」                                                                https://www.rengo-soken.or.jp/work/keizai/

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