「働くガチャ」の影響を少なくできるか
新井 康弘2025年5月20日発行
連合総研にきてから半年が過ぎ初めての桜の季節を迎えた。この間、まず『私』に関する出来事として、子どもと性格診断で盛り上がった。その時、私の結果を聞いた子どもの反応は「えっ、『I』?」でどうも意外のようだった。何度試しても「I」は変わらず、結果は「ISFP(冒険者)」「INFP(仲介者)」という2パターンだけとなった。もうすでに試した方も多いかもしれないが、これは若い世代で流行している「16 Personalities[1]」という性格検査の結果だ。私の家族で限ってみると、その結果は言い得て妙という感じであった。なお、「16 Personalities」は若年層等から通称MBTI[2] と呼ばれているが、一般社団法人日本MBTI協会(以下、MBTI協会)[3]が実施する正式な「MBTI」とは全く別のものであることに注意が必要である[4] 。次に「公」については、DIO2月号[5] で「若手の活躍」を取り上げたこともあり、桜の開花が待ち遠しい3月中旬には武道館で行われる各大学の卒業式に向かう多くの卒業生をみかけ、4月から新社会人として、配属先でどのような活躍をするのだろうと考えていた。
近年では「配属ガチャ」「上司ガチャ」という言葉をよく耳にする。これらは「運任せで配属・上司の良し悪しが決まる」というニュアンスが強く、特に「ハズレ」の意味合いが含まれがちである。しかし、新入社員から見た「ガチャ」があるならば、迎え入れる側の上司や先輩から見た「部下ガチャ」「後輩ガチャ」も存在する。ちなみに、私も最初の上司に「4人連続で新入社員だ」と言われたことがあり、その上司にとって私は「ハズレ」だったのだろう。
働く者にとって、今の「ガチャ」でアタリを引いても、次にハズレを引く可能性は否定できない。自身が異動や昇進をしなくても、職場の上司や同僚が変わることで環境が一変することもある。つまり、働いている限り、この「働くガチャ」は続き、完全に避けるのは難しいといえる。ただし、しばらくして「やはりハズレだった」と感じるリスクは軽減できるのではないか。
DIO4月号[6]で取り上げたように、多くの課題を抱えているにも関わらず、管理職には多様な部下との丁寧なコミュニケーションが一層求められている。逆に部下も否応なく管理職との対話が必要になる。背景や立場、経験、価値観の違いがある中で、お互いが「ハズレだった」と感じないためには、まず相互理解が重要だと考える。
そのための有効な手段として、先述の「MBTI」「16 Personalities」の活用は考えられないか。もちろん、両者が別物であることや、先入観や固定観念を持たないなどの様々な前提条件・留意点はあるものの、例えば、「MBTI」は企業等を通じてフォーマルな場で導入・実施する一方、それができない場合など、状況によっては、若年層に受け入れやすい「16 Personalities」を使ってみるなど使い分けることも可能だと考えられる。
特に「MBTI」については、MBTI協会のHPに企業で導入・活用した事例[7]が掲載されており、また、導入企業の関連HP[8]でも自己理解や相互理解が深まったことが報告されている。
今回、一例として「MBTI」「16 Personalities」をとりあげたが、今後、職場でのコミュニケーションの重要性がますます高まる中、仕事での出会いを、単なるガチャのままで終らせず、成長の機会とするためにも、自己理解・相互理解を深める手段が求められるだろう。それは会社レベルにとどまらず、上司・部下、先輩・後輩を問わず個人レベルでも重要な取組みになるはずである。
[1] 16 Personalities
https://www.16personalities.com/ja/%E6%80%A7%E6%A0%BC%E8%A8%BA%E6%96%AD%E3%83%86%E3%82%B9%E3%83%88
[2] 「MBTI」は一般社団法人日本MBTI協会の登録商標です。
[3] 一般社団法人日本MBTI協会HP
[4] 一般社団法人日本MBTI協会HP 「16Personalities性格診断テストを「MBTI®」だと思って受けられた方へ」
https://www.mbti.or.jp/attention/
[5] 連合総研レポートDIO2025年2月号 特集「若手の活躍に向けて」
https://www.rengo-soken.or.jp/dio/2025/02/250900.html
・寄稿1 「日本の若年労働市場はこの10年間で どう変わったのか?」
慶應義塾大学経済学部 教授 太田 聰一 氏
・寄稿2 「若年者の定着や活躍に向け、企業に求められていること」
青山学院大学経営学部教授 山本 寛 氏
・寄稿3 「若者といかに向き合うか人材獲得、育成から考える」
千葉商科大学国際教養学部准教授 常見 陽平 氏
[6] 連合総研レポートDIO2025年4月号 特集「組合員と管理職―今、管理職に何が起きているか―」
https://www.rengo-soken.or.jp/dio/2025/04/170900.html
・寄稿1 「働き方改革における管理職の役割と課題」
労働政策研究・研修機構(JILPT) 主任研究員 高見 具広 氏
・寄稿2 「管理職に求められる部下マネジメントの変化」
法政大学キャリアデザイン学部 教授 坂爪 洋美 氏
・寄稿3 「管理職層の組織化」 ―― 三越伊勢丹の事例に即して
長野大学 企業情報学部 教授 鈴木 誠 氏
[7] 一般社団法人日本MBTI協会HP「実際の導入例および論文のご紹介」
https://www.mbti.or.jp/what/jirei1/?page=c
[8] この指とーまれ 「Well-beingに働きたい」#7 〜MBTI編〜
https://www.to-mare.com/well-being/2024/well-being7-mbti.html