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働く人のウェルビーイングは誰が担うのか ―企業主導の限界と労働組合の役割―

新井 康弘2026年3月16日発行

1.心残りだったウェルビーイング

近年、「ウェルビーイング」という言葉が国や自治体、企業で広く語られるようになっています。特に、企業では健康経営や人的資本経営と結びつきながらウェルビーイングの取り組みが進められています。しかし、企業だけが担うべきなのか、そしてどのように担っていくべきなのか、誰のためのウェルビーイングなのかという点については、働く者にとって大きな疑問がでてきます。

DIO2月号でウェルビーイングを特集テーマとするにあたって、実は、私自身、少し"心残り"を抱えていました。数年前、出身組織の取り組みにウェルビーイングを取り入れようとしたことがありました。しかし、当時はそれをうまく形にすることができず、「ウェルビーイング」という言葉を添えるだけで終わってしまいました。その後、連合総研に出向し、改めてこのテーマに向き合う機会を得ました。

今回、DIOでウェルビーイングの特集を担当したことを契機に、企業主導のウェルビーイングへの違和感、既存の労働組合の取り組みとの関係、そして働く人のウェルビーイングを誰が担うのかについて、改めて考えてみたいと思います。

まず、先述のウェルビーイングが心残りとなった理由について振り返ってみると、大きく二つあったように思います。

2.企業主導のウェルビーイングへの違和感

一つ目は、企業主導で語られるウェルビーイングへの違和感でした。多くの企業では、ウェルビーイングが「健康経営」や「生産性向上」と結びつけて語られていました。賃上げへの社会的期待が高まるなかで、それを実現・持続させていくために生産性向上が重要であることは確かです。しかし、企業がウェルビーイングを生産性向上の手段として強く捉えているのであれば、それは「働く人のため」というより「企業のため」の施策になりかねません。これが企業主導のウェルビーイングに対して、私が持ったどこか"しっくりこない"感覚でした。

この点について、DIO特集で斎藤氏(明治学院大学教授)が述べた「企業と労働者の利害は完全には一致しない」という言葉は、私が感じていた違和感を言語化してくれるものでした。企業が語るウェルビーイングと、働く人が求めるウェルビーイングは、重なる部分もあれば、すれ違う部分もあります。その現実を、当時の私はうまく整理できていなかったのだと思います。また、斎藤氏は、企業からの一方通行的な「生産性向上」でなく、「生産性改善」という言葉を用いています。「改善」は企業と労働者が双方向でウェルビーイングを向上させていく必要があることだと考えます。

3.既存の取り組みとのつながりの見えにくさ

二つ目は、既存の労働組合の取り組みとの関係が見えにくかったことです。労働時間の短縮、休暇取得の促進、ハラスメント対策など、出身組織ではすでに働く環境の改善に向けたさまざまな取り組みが進められていました。その中で、「ウェルビーイング」という言葉をどこに位置づければよいのか、当時はうまく整理できませんでした。

しかし、今回の特集を通じて改めて考えると、ウェルビーイングを新しい取り組みの1つとして追加するより、これまでの取り組みをより大きな視点から捉え直す概念とすべきではないかと思い直しました。広井氏(京都大学名誉教授)が指摘するように、ウェルビーイングと労働の関係を掘り下げることは、現代社会において極めて重要なテーマです。労働時間や賃金、職場環境といった従来の取り組みも、働く人のウェルビーイングから見直してみることで、これまでの取り組みをより良くし、また新たな考えや取り組みも生まれると思います。

4.働く人のウェルビーイングを揺るがす動きもある

現在、働く人のウェルビーイングを揺るがしかねない動きが見られます。その一つが、裁量労働制の拡大に向けた動きです。長時間労働の是正が依然として重要な課題であるなかで、裁量労働制が広がり、労働時間が長くなるようなことがあれば、働く人の健康や生活が不安定になる可能性があります。仮に長時間労働によって心身の不調が生じ、それを企業の健康施策で回復させるという構図になれば、本末転倒と言わざるを得ません。

長時間働けば生産量は増えるかもしれませんが、時間当たりの生産性が高まるとは限りません。むしろ低下する可能性もあります。ウェルビーイングの観点から見ても明らかに逆行する動きです。働く人のウェルビーイングの観点からも慎重な検討が求められると考えます。

5.働く人のウェルビーイングと労働組合

企業によるウェルビーイング施策が注目されています。一方、労働組合は、ウェルビーイング向上に関わる取組みをしているにも関わらず、それが十分に可視化されているとは言えません。例えば検索をしても企業主導ウェルビーイングの取り組み事例はたくさんでてきますが、労働組合によるウェルビーイングの取り組み事例は多くありません。

桑原氏(麗澤大学教授)によれば、雇用の分野等では「当事者の感じ方を重視する評価への転換が進んでいる」とされています。この点について、労働組合には大きな強みがあります。アンケートやオルグ、ヒアリングなどを通じて、組合員の声やニーズを丁寧に把握できることです。

誰もが「よりよく働き、よりよく生きたい」と願っています。働く人のウェルビーイングを実現するためには、企業の取り組みに任せるだけでなく、働く人自身の視点が反映された仕組みが必要です。その意味で、労働組合は働く人の声を社会や職場に届ける重要な役割を担っています。

広井氏が指摘する「現代的テーマとしての労働とウェルビーイング」、斎藤氏が提起する「企業と労働者の認識ギャップを埋めること」、桑原氏が強調する「ストレスやワークライフバランスの視点」、そして高野氏が示した「地域の居場所の重要性」、これらはすべて、働く人のウェルビーイングを考えるうえで欠かせない視点です。

労働組合はこれらの課題に対応し、働く人のウェルビーイングを支える重要な担い手の一翼として責任を果たしていく必要があります。また、その取り組みや成果を組合員だけでなく、社会に対しても積極的にアピールしていく必要があるのではないでしょうか。

【関連リンク】

連合総研レポートDIO416号(20262月)

 https://www.rengo-soken.or.jp/dio/2026/02/240900.html

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