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理事長コラム
『信ずること、の意味』
神津 里季生

民主主義の進歩を信ずること

File.32023年3月16日発行

国際労働運動の3.11

日本のマスメディアでは全くとりあげられていませんが、3月11日にベルギー・ブリュッセルで開催されたITUC(国際労働組合総連合)の第30回執行委員会において、現役の書記長であるルカ・ヴィセンティーニ氏が解任されるという、前代未聞の出来事がおきました。
私はこの解任劇につながることとなった報告書を提出した「特別委員会」構成員5名のうちのひとりとして、通算40時間余りの委員会に対応し、ここに至るまでの想定外の事態に対応してきました。

ことの発端は、EU議会の一部にまきおこったカタールゲート事件に連座する形で、ITUCルカ・ヴィセンティーニ書記長が昨年12月9日ベルギー当局に逮捕され取り調べを受けたことに始まりました。わずか17日前の大会での選挙に勝利し、4年間の任期をスタートさせたばかりの新書記長に生じた現金授受の疑惑に、世界中の労組指導者が驚愕を余儀なくされたことは言うまでもありません。さしあたっての取り調べにおいては賄賂性は認定されず二日後に拘束は解かれたものの、現金を何に使ったのかという問いに対する答えが、「自らの選挙キャンペーン」であったことが明白になるにつれ、書記長に対する指弾は世界の労働組合組織に広がったのでした。

そんなにきれいなもんじゃない

特別委員会における取り組みは、スウェーデンの労組出身でジェンダー平等大臣・雇用大臣を歴任したエヴァ・ノルドマーク委員長のもとで、関係者に対する精力的なヒヤリングを重ねるとともに、報告書の最終文案の読み合わせを二度にわたるまで行い、まさに一言一句に心血を注ぐものとなりました。
特に注意を払ったのは、問題の核心はベルギー当局がクロというのかシロというのかというような合法性の観点ではなく、労働運動としての倫理と実践に関する次元の事柄であるということでした。そのような視点は並行して行われた外部監査人の報告では希薄でしたから、なおのこと私たち特別委員会こそが強調しなければならない論点でした。
かつて連合が規約改正議論において提起し採用された文言である「最高度の民主的ガバナンス、透明性と説明責任」という言葉が、この特別委員会報告においてもそのコアのところで使われることとなり、大いなるめぐりあわせを感じることとなりました。

こう言っては何ですが、労働運動も各国各様、理想と現実にはギャップがあり、政治的な取り引きや不穏な動きも数限りなくあります。そんなにきれいなもんじゃないよ、という場面を私も見聞きしてきています。ルカ・ヴィセンティーニ書記長選出に至る過程においても、私自身、理不尽なプレッシャーに遭遇したことも事実です。これが民主主義国家の労働組合のやることか、という事例も目にしてきました。
だからこそ、筋を通してよかった。信念をまげることなく対応してきたことが今回の結果につながった、としみじみ思うものです。

ひたすら理想をおいかけること

民主主義を確立していく営みは七転び八起きです。
書記長解任は危機克服に向けた新たなスタートですが、当面の書記長代行選出、そして臨時大会(たぶんオンライン大会)の設定・準備、そして新書記長選出と、連合・UAゼンセン出身の郷野晶子さんは、昨年11月22日のITUC会長就任以来、いきなりの修羅場に立たされています。
ご本人にとってはふってわいた災難と言ってもいいほどのことですが、ひたすら理想をおいかけてきた郷野さんだからこそ、ITUCの正念場に立ち向かうことができると私は思っています。
私も、一言一句を読み合わせたあの日のことを忘れることはありません。民主主義の進歩を信ずる同志として見守り、支えていきたいと思います。

連合総研 理事長 神津里季生

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