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理事長コラム
『信ずること、の意味』
神津 里季生

視座をどこに置いているのか

File.72023年10月17日発行

ぶれない芳野会長と、ぶれてばかりの日本の政治

10月5~6日の第19回連合定期大会で芳野会長・清水事務局長を中心とした連合の第18期役員体制が確立された。芳野体制の第二期目である。

大会冒頭の主催者代表挨拶や、あらためて会長に選任された直後の新任役員代表挨拶等、芳野会長の発言は、落ち着きを持ちながらしっかりと芳野カラーを出した、好感の持てるものであった。

第一期目の二年を振り返ると、とくに出だしのところではいきなりの総選挙というタイミングだったこともあって、政治ネタでマスメディアから「いじられる」局面が目立ったし、それが物議をかもすことも少なからずあった。(それがそもそものメディアの狙いだったわけだが) しかし、芳野会長自身が言っているとおり、彼女の言動自体はこれまでの歴代の連合会長とさほど変わったものではない。骨のところは全く変わっていない。

初の女性会長として目立っているなかで、彼女の言動が取り上げられる頻度は今も多い。しかしそれらを扱う若い政治記者の大半は連合を中心とした労働運動の政治に対するスタンスをあまり知らないし、実際の報道ぶりを決めていくデスクや上層部は、記事の反響を大きくすることに最大の価値を置いているので、どうしても偏った内容になってしまう。

問題は、そういう構造のなかで、やたら「分断」を強調し、連合が「揺れ動いている」などとする記事が目立つことだ。

あたかも動いている列車から静止している列車をみると相手が動いているようにみえるが如く、ぶれまくっている政治に視座を置くマスコミ諸氏からすれば連合が「揺れ動いている」ようにみえるのかもしれないが、そんな心象で連合を揶揄する大見出しをつくられることははなはだ迷惑だ。職場の組合員はそういう報道に潜在意識を侵されてしまう。

芳野会長の言動がまったくぶれていない一方で、政治の世界は唖然とする事態の連続で、ぶれてばかりなのである。連合運動にとって政治はあくまでも手段であり目的ではない。働く者の幸せ実現という目的を追求する労働運動自体はぶれずに整斉と運動を展開している。

「政局」ではなく「政策」でしか日本を救えない

政治の世界に視座を置く人々の思考パターンは、「政局」優先である。「政策」はそこに従属するものでしかない。そんなことの繰り返しだから働く者・生活者本位の政策は先送りが繰り返され、見栄えだけの政策実行が繰り返されていく。その結果が先進諸国の中でも際立った格差社会であり、また賃金や取引価格をはじめとした「安いニッポン」の定着である。一方では財政赤字は累増するばかりで、その解消の見通しも立っていない。将来世代へのツケの先送りである。

わが国のこのような政治風土をつくりあげた要因は主権者教育の欠如にある。18歳選挙権の付与をきっかけにしてようやくわが国でも模擬投票などを教室で実施するようになったが、まだおっかなびっくりである。政治を学校に持ち込むなという政府の長年の方針がわざわいして、学校で、現実の政治に対する向き合い方や政策議論、選挙の大事さなどの教育が抜け落ちたままでここまで来てしまった。

そのような風土の国であるから、若年者の投票率が30%台前半というのも当然の帰結であろう。これではまじめな政策議論とそれを尊重する政治家が育つわけがない。

連合総研は、政策本位の運動を進める連合の理念を基軸に、様々な研究成果を提供し続けてきている。「政局」ではなく「政策」でしかこの国を救えないことが一層明らかになる状況のなかで、危機感がつのる。

信ずることのできる政治家のいるうちに

「連合」はひたすら労働者・生活者本位の政策を追い求め、そしてその実現に汗をかき続ける存在であるから、今のような政局本位の政治とそれを助長するマスコミという負の連鎖は大きな障壁である。これはなにも政治家やマスコミだけを批判するために言っているわけではない。政治もマスコミも私たち国民の意識の鏡である。主権者教育の不在がこのような風土の温床となってきたことの自覚なしに事態の改善は図れないが、このような風土自体を変えていくには相当の時日を要することも認識せざるを得ない。長い間に積みあがってきた体質である。

しかし、そのような厳しい風土のなかでも、「連合」という政策本位の集団が信ずることのできる政治家は、今も確実に存在する。そしてそのような貴重な存在が力を発揮できる環境にしていくことは決して100%の不可能ではないはずだ。

信ずることのできる政治家のいるうちに、政策本位の社会に変えていく努力が求められる。

連合総研 理事長 神津里季生

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