与野党の代表者がやるべきことは何なのか?
File.122024年8月27日発行
何も変わっていない?
政治の世界というものは進むときは一挙に進んだりするが、進まないときは全然進まない。それどころか、あっという間に退化するときもあるし、いつも後ろにじりじり下がっていくことの方が多いように思うのだがいかがであろうか。
以下はこの欄の2月時点でのコラムの一節である。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
政治とカネの問題が世を覆っている。
またか、みたいな話だ。
率直に言って有権者はこの種のスキャンダルにウンザリだ。
こういう話が出るたびに肝腎の政策論議がうっちゃられ後回しになることにも辟易している。
そしてスキャンダル追及もほどほどにしろとか、揚げ足取りだけだとか、野党は揶揄されがちだ。
私自身そのように感じたこともある。
しかし今回ばかりはそんな話で済まされない。
今明るみになっている事柄や、表にさらされようとしている問題は、そんな次元の話ではない。
これまで中途半端な対処しかしていないから不祥事がなくならず、そのたびに政策論議が妨害されてきたのだ。
この際、元から断たねば、永久にこのようなことの繰り返しが続いていく。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
いかがであろうか。私としては、今また同じ主張を繰り返さざるを得ない。2月から何も変わっていないのである。それどころか、世の中の熱気がどこかへ行ってしまい、冷めてしまっているとすれば、やっぱり政治の世界はじりじりと後ろに退歩してしまうと思わざるを得ない。
争点をぼやかすな
6月に閉幕した通常国会では、改正政治資金規正法が自民党と公明党の数の力によって可決されたわけであるが、パーティー券購入者の公開基準額引き下げ、政策活動費の10年後の領収書公開と監査のための第三者機関の設置などにとどまり、全般的に踏み込みが足りず、そして多くを「検討事項」としているものであって、依然として抜け穴が多いとのそしりは免れない。
しかし自民党としてはこれでやれやれということなのであろうか、岸田総理の退陣表明もあいまってモードは一挙に総裁選モードである。メディアも、競輪・競馬等のレースやプロスポーツ等の、一般的な大衆娯楽とあまり変わらぬような「はやしたて」をしているように見えてならない。若手がどうの女性候補がどうのというとらえ方もその線上でしかない。そんなことよりも、中途半端な状態にとどまっている政治改革をいったいどうしていくのかという話が全くみえてこない。
立憲民主党の代表選が埋没していると言われるが、当り前であろう。肝腎な問題が取り上げられず、争点がぼやかされているのだから。そんな「目くらまし状態」のなかでは、「有名人」の多さでひけをとり、立候補者数も少なくならざるを得ない規模の、野党の代表選が地味になるのは当然だ。
政策実行の大前提は信頼の土台があること
政治家がやるべきこととは、あるべき姿を提示し、実現していくことだ。
今、置き去りとなったままの政治とカネの問題について、あらためてあるべき姿を提示し、国民に信を問うてもらいたい。
そもそもこのような大きな問題は本来、与野党で協議を重ね、一致をさせて実現させるべきだが、通常国会では全くそんなことにはならなかった。今後、9月に選出される与野党第一党の党首には、お互いに相手をリスペクトし、(と同時にリスペクトされ、)堂々と論戦を重ね、一致点を見出す努力を国民にしっかりと見せることの力を求めたい。もちろん、その際には、そのような力とともに、不可避とあらば粛々と選挙で闘っていく胆力も不可欠であることは言うまでもない。
経済対策、社会保障、外交・安全保障等々あまたの政策実行を進めていくための大前提は、それらが国民に信頼される政治構造のもとで営まれることである。信頼の土台が歪んだままでは、政治はいつまでたっても前に進むことはできない。
難しい話にするな
目くらましのような総裁選・代表選となってはならないのと同時に、一見まともな政策論議に思われるような動きにも注意が必要だ。
以下、再び2月のコラムの一部再掲である。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
選挙を前にすると野党間の政策調整などの話が取りざたされる。
そして野党間のあつれきが表ざたになる。
話はたいていまとまらない。
そういうことの繰り返しはやめてほしい。
どうあっても今回は難しい話にすべきではない。
今度の総選挙は、政治とカネの問題を徹底的にただし、あるべき姿を実現していく、そのことに唯一最大の価値を置くべきだ。これこそ多くの有権者が求めていることだ。
政権の枠組みは選挙結果が確定してから決めていけばいい。世界を見わたせば、何か月もかけて連立の姿を決めていく国はいくらでもある。
もちろん各政党は全ての政策項目にわたって選挙公約を明確にしなければならない。当たり前のことだ。単独で政権を実現できたら粛々と実行に移していけば良い。
選挙結果で過半数の議席がとれなければ、理念と方向性の近い他党に、許容できる範囲で呼び掛けて政策調整を進め連立協議をしていく。当たり前のことだ。
当たり前のことをやってもらいたい。難しい話でブレーキをかけることは許されない。
・・・・・・・・・・・・・・・
いかがであろうか。何も変わっていないのである。
以下、締めのコメントも2月のコラムから。
政治を、信ずることのできる状況に持って行かなければ、あらゆる政策論議は徒労に終わってしまう。
政治を信ずることができなければ明日はない。
連合総研 理事長 神津里季生