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前理事長コラム
『時代を見つめる』
古賀 伸明

「英国ショック」

File.72016年7月 5日発行

第24回参院選本番に突入して2日目の7月24日、英国は国民投票によってEU離脱を選択した。私自身、まさか離脱派が上回るとは思ってもいなかった。パナマ文書でキャメロン首相が話題になり国民の信頼は薄れたとはいえ、僅差でも残留派に軍配が上がるものと考えていた。世界の多くの人たちがそう予想していたのではないだろうか。日本では号外が発行され、「英国ショック」と新聞の見出しが躍った。

英国のEU離脱は世界経済に与える影響も大きいが、英国内はしばらく混乱が続くであろう。離脱運動を牽引した前ロンドン市長のポリス・ジョンソン氏の首相選挙への突然の不出馬表明や、英国独立党のファラージュ党首の辞任、再投票を求める署名など。離脱を支持した人の中にも離脱回避を求める人は少なくないようだ。

また、世界的にも、国民投票の是非まで論議の対象となっている。私自身は限定的であるべきだと思う。国内のみならず国際関係にまで関連する国のあり方は、詳細な情報を得られない国民には冷静な判断ができない場合が多い。英国は議会政治・政党政治の発祥の地である。そのシステムでは決定できないから国民の声に丸投げでは何をかいわんやである。

一方では、EUは英国離脱のショックを乗り越えて結束していけるかどうか、その真価も問われる。発足時、壮大な実験と言われたEUであるが、欧州が統合でなく分断に向かえば、国際秩序は一気に不安定化するだろう。

私は2015年DIO新年号の念頭の挨拶に、米国プリンストン高等研究所のダニ・ロドリック教授の「グローバリゼーションのパラドックス」を引用した。私なりに解釈すれば、グローバリゼーション、民主主義、国家主権の3つは並び立たず、いずれか一つは諦めなければならない、したがって、グローバル化と国家主権のために民主主義を犠牲にするのか、それとも民主主義と国家主権によってグローバル化をコントロールしていくのかが問われているという指摘である。面的・量的な拡大の先にどのような社会をめざすのか、社会全体の公正・公平な発展をいかに実現していくのかは先進国共通の構造的課題であり、英国のEU離脱もこのことと大きな関係がある。日本とて決して例外ではない。

そのような中で、参院選投票日まで残すところわずかとなった。生活者・働く者のスタンスを持つ政治家を増やし緊張感ある政治状況を作り出すため、私たち一人ひとりが最後までその役割と責任を果たす必要がある。

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