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前理事長コラム
『時代を見つめる』
古賀 伸明

「鳴かぬなら・・・どうする?」

File.162017年4月10日発行

米国のシリア攻撃や北朝鮮の課題などのニュースが世界を駆け巡る。しかし、何事もなかったように、日本では確実に、寒い冬が終わり季節は春から夏へと移り変わる。

春になると、主として繁殖のために渡ってきて夏を日本で過ごし、繁殖期が終わると再び南方に去る渡り鳥が渡来する。カッコウ類の一種のホトトギスも、5月中旬に日本にやってくる。ホトトギスの鋭い大きな激情的ともいえる独特の鳴き声は、"テッペンカケタカ"とか"特許許可局"とも聞こえ、子供の頃、その鳴き声を真似た思い出を持つ人も多いだろう。

そんなホトトギスも、初夏を告げる代表的な渡り鳥としてよく知られ、万葉集の時代から現代まで短歌や俳句によく詠まれている。俳句ですぐ思い浮かぶのが、織田信長の「鳴かぬなら殺してしまえホトトギス」、豊臣秀吉の「鳴かぬなら鳴かしてやろうホトトギス」、徳川家康の「鳴かぬなら鳴くまでまとうホトトギス」という、天下人の性格を後世の人がたとえた句だ。

松下電器産業株式会社(現パナソニック)を創業した松下幸之助氏は、生前、ある人からこの三つの句のうちでどの句が一番好きですかと問われて、しばらく考えた後「鳴かぬならそれもまたよしホトトギス」と応えたそうだ。亡くなる寸前の92歳から94歳に語られたものをまとめた『人生談義』の中には、『三人が詠んだものか、あるいは後世の人が、三人の特徴を端的に表現するために作ったものなのかは知りませんが、それぞれ、鳴くということを期待しているから出てくることばです。つまり、鳴くということに皆こだわっていると思うのですよ。ぼくはね、何ごとでも、何かにこだわっていたら、うまくいかないと思っています。だから、ぼくならこういう態度でありたいですね。「鳴かぬならそれもまたよしホトトギス」。つまり、自然の姿でいこうというわけですよ。なかなかむずかしいことですがね。』とある。とても考えさせられることが多いメッセージである。創業者の生の声でその真意を一度確かめてみたい衝動に駆られる。

一方ではこの難しい時代だからこそ、もう少し心にゆとりが欲しいのも現実である。「鳴かぬなら踊ってみたらホトトギス」というのはどうだろうか。歌ってみたらホトトギス、笑ってみたらホトトギス、叫んでみたらホトトギス、幾らでも次々と異なる趣向での言葉も浮かんでくる。

自分の価値観とは異なっていても、少しだけウィングを広げることで、今までと全く違った世界が広がり、新たな視点を発見できるきっかけになると思う。さて、あなたは鳴かぬホトトギスを目の前にしてどう詠む?

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