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前理事長コラム
『時代を見つめる』
古賀 伸明

「当たり前への挑戦」

File.172017年5月28日発行

英国・マンチェスターで、これから社会を担う多くの若者が犠牲となる痛ましいテロ事件が発生した。振り返ると、この1ヶ月の間に、世界も日本も、何か得体の知れない転換期を示唆する出来事が続いている。フランスは既成政党外から大統領を選出し、韓国の大統領選挙では9年ぶりの政権交代となった。中国では「一帯一路」と銘うって一体的中華経済圏の拡大ともいえる国際会議に多くの国の首脳や代表者が参加した。加えて、言うまでもなく北朝鮮の弾道ミサイル発射である。

一方、日本では世論が二分している状況のまま、組織的犯罪処罰法改正案・テロ等組織犯罪準備罪新設法案が、衆議院で成立し参議院に送られた。すなわち、要件を一部変えた共謀罪法案である。巷では、安倍総理のG7サミットへのお土産と言われている。そして、安倍総理の憲法改正発言だ。自らの組織内より早く読売新聞に提示し、国会審議の中での"読売新聞を熟読発言"など異例尽くめの行動である。さらに、森友学園や加計学園の問題が世間を騒がせている。不思議なのは、こんな状態であるにもかかわらず、国会が止まらないことだ。野党が頼りないからだけでは、どうも腑に落ちない。

私たちは、1989年ベルリンの壁崩壊が引き金となった冷戦構造終焉が、グローバリズム・市場経済と民主主義との共存を形作り、それが「当たり前」の社会を創造したと思っていた。しかし、英国のEU離脱、いわゆるブレグジットやアメリカのトランプ大統領誕生現象をはじめ、冒頭記述した出来事などから、「当たり前」ではなくなりつつあることを認識すべきではないかと思う。私たちには、グローバル経済と民主主義の新たな共存関係をどうつくっていくのかが問われている。

一方、ロンドン・ビジネススクールのリンダ・グラットン教授と前副学長のアンドリュー・スコット教授共著の昨年10月和訳された「ライフシフト」が評判になっている。副題は「100年時代の人生戦略」。「約100年前の1914年に生まれた人が、100歳まで生きている確率はわずか1%だったが、2017年の世界では、100歳生きることが普通の光景になっている。日本にいたっては、2007年生まれの50%は107歳まで生きると推測される」との記述もある。今後どんな時代が訪れ、どんな生き方を模索すればいいのか。これまで「当たり前」であったさまざまなシステムや仕組みを、抜本的に変革する必要があるのだろう。

複雑に要因が絡み合う課題が多い、私たちが働き暮らす成熟社会では、「当たり前」である原理原則や基本に今一度立ちかえらなければならない。しかし、一方ではこれまで「当たり前」と思っていたことを疑ってみる姿勢や他の角度から検証し直すことも求められている。いわば、「当たり前」への挑戦である。

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