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前理事長コラム
『時代を見つめる』
古賀 伸明

おもしろき こともなき世を おもしろく すみなすものは 心なりけり

File.252018年1月31日発行

今年(2018年)は明治元年から150年の節目の年となる。およそ700年続いた武士の時代が終わり、大政奉還によって明治天皇を中心とした国家の中央集権化が進められた明治維新。その明治維新にいたる江戸幕府の幕末期、京都を舞台として朝廷を巡り幕府・薩摩藩、長州藩などの藩・公家を中心として複雑で過激な政争が展開された。

その幕末期、討幕運動の中心人物の一人であったのが、高杉晋作である。長州藩士で、吉田松陰が創設した松下村塾の逸材といわれ、有名なのは奇兵隊という独自の組織を創り活躍したことだ。これは日本における近代的な軍事組織のはじまりと言われ、兵隊は士農工商問わず、志が有れば身分に関係なく徴用する民兵隊だった。厳格な身分制がまだ日本に残っていた時代に、高杉の計画は、あまりに革新的なものだったようだ。

高杉は自らの行動を狂挙と呼んでいたが、歴史変革への鋭い直感と、伝統的枠組みに対する異端的行動の意味を読み取ることができ、一見無謀に見える背後に慎重な配慮もかくされていたといわれている。幕府による第二次長州征伐での戦いでは、高杉晋作の前代未聞の戦術の駆使が勝利を導き、徳川幕府の権威を落とすことで、一気に日本の近代化への扉をこじ開けたと言っても過言ではない。しかし、明治という新しい時代が目の前にやってきている中、戊辰戦争に参加することもなく、若干27歳8ヶ月で当時では不治の病であった肺結核にかかりこの世を去った。その半年後、15代将軍徳川慶喜は、大政奉還を申し出たのである。

冒頭の句は、高杉晋作のあまりにも有名な辞世の句。一説によれば、病床で下の句を継げない高杉にかわり、看病していた野村望東尼が「すみなすものは心なりけり」と結び、それをうけた高杉晋作は「おもしろいのぅ」といって、息を引き取ったともいわれている。

もちろん、当時の寿命は現在と比較すれば想像以上に短かったし、状況も全く異なる。しかし、27、8歳という若さで偉大な足跡を残し、波乱の生涯を生き抜いた人生の凝縮ともいえるこの辞世の句に接する時、自らを改めて見つめ直さざるを得ない。私たちが働き・暮らし・生きることに課題はいつも付きまとい、時々明るさを失い、ふさぎ込んでしまいがちになる。また時として、様々な課題から逃げ出してしまいたくなる。しかし、主体的な自分の心・気持ちの持ち方で、明るく、おもしろく自分自身の生き方を創り出していけることをこの句は教えてくれているのではないだろうか。

さて、私たちも"今年はどんな年になるのだろうか?"ではなく、"今年をどんな年にしようか!"。

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