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前理事長コラム
『時代を見つめる』
古賀 伸明

「不覚」

File.262018年2月28日発行

今から約100年前の1918年~19年にかけて世界中で大流行した「スペイン風邪」。感染者は約6億人、死亡者は4000万人~5000万人、当時の世界人口は約18億人~20億人であり、約3割が感染したことになる。日本でも当時の人口5500万人に対し40万人~50万人の死亡者が出たと報告されている。第一次世界大戦中で、その大戦の死亡者は1600万人ともいわれるので、その感染のすごさが感じられる。

当時はまだウイルスの分離技術が十分に確立されておらず、その病原体は不明であった。1930年代に入りその病原体が推測され、最終的には1997年にスペイン風邪の病原体の正体が明らかとなった。その病原体が、A型インフルエンザウイルスであったことと、それまで人に感染しなかった鳥インフルエンザウイルスが突然変異を繰り返し、人に感染する形に変化する可能性が高いことが判明された。つまり、当時の人々にとっては全く新しい感染症であり、スペイン風邪に対する免疫を持った人がいなかったことが、この人類史上最悪のパンデミックを引き起こした原因だと考えられている。

余談であるが、その発生源はアメリカであったのに、何故スペイン風邪というのか。それは第一次世界大戦が理由であったようだ。戦争に関わっていた国々は情報統制がとられていたが、大戦に参加していなかった中立国のスペインでは報道が自由であり、唯一公表していたためスペイン風邪という名称になったという。ドイツの政治学者のマックス・ウェーバー氏や「接吻」をはじめ代表作を多く持つ帝政オーストリアの画家・グスタフ・クリムトも、このスペイン風邪で亡くなっている。

不覚にもこのインフルエンザA型にやられてしまった。熱が徐々に上がってきたのが日曜日だったため、夕方に近くの休日緊急診療所に駆け込んだところ、インフルエンザA型と診断される。二日間で熱も下がってきたため、あと数日と思っていた矢先に、咳き込んで夜眠れなくなり熱も再び上がり始めた。以前からお世話になっている病院の呼吸器センターに朝一番飛び込み検査したところ、肺炎を併発しているとのことで、そのまま入院となった。ご丁寧に両肺、それもウィルス性と細菌性の混合。主治医曰く「今日、来てくれて良かった。遅れればどうなったかわからない」と言われ、こちらがドッキリ。

今年のインフルエンザはこの肺炎を併発するケースが、例年に比べて格段に多いそうだ。テレビで流れていた板東玉三郎さんの肺炎予防のメッセージが思い浮かんだ。テロップには「肺炎でなくなる95%以上が65歳以上」という言葉が。年相応という言葉が身に沁みる。やっと今週末に退院することとなった。なお、前段のスペイン風邪のくだりは、主治医との会話の中で得た知識である。

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