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前理事長コラム
『時代を見つめる』
古賀 伸明

「できる」と「わかる」

File.282018年4月29日発行

現在、AIの話には事欠かない。最近、三人の方から「AIvs教科書が読めない子どもたち」という本を薦められた。異なる分野の方から、同時期に同じ本を薦められるのも珍しいことだ。

著者は、2011年4月にスタートした「AIロボットは東大に入れるか」(略称「東ロボくん」)プロジェクトのリーダーである国立情報学研究所(NII)の新井紀子教授。非常に興味深い内容らしい。"らしい"というのは私自身、まだ読んでいないからだ。「東ロボくん」の2016年度センター試験結果は、偏差値57.1。MARCHと呼ばれる明治・青山学院・立教・中央・法政という大学には合格レベルであるが、残念ながら東大合格圏には達しなかったという。

新井教授は、AIは問題を理解する読解力に限界があることを指摘し、成績がよかったのは数学や物理と世界史で、国語や英語では、特に長文の問題は苦手で、「読解力」不足が明らかになったと発表した。いわゆる問題文を読み解いて意味を理解することができなかったのだ。これ以上の親展はないとして、プロジェクトは一旦凍結となった。"AIは機械であり、論理・確率・統計で表現できることしか扱えない。しかし、私たち人間の営みは、全てこの3つに置き換えることは可能ではなく、例えば言葉の意味をどう解釈するのかや、人の感情をどのように表現するのかなども含んでいる。単語の意味を理解したり、短い文を翻訳したりするという点では優秀な「東ロボくん」だが、複数の文章や会話になると、常識とか経験に基づいた人間が持っている行間を読む力は弱い。これらのことはAIが本質的に抱えている弱点だ"と指摘する。

新井教授は、大切なのはAIが得意とする知識の暗記ではなく、本来人間が得意とする「文章をきちんと読んで意味を理解する力を養うことではないか」と言及し、ご自身がはじめた「全国読解力調査」によれば、多くの子どもたちが教科書を読めない現実に突き当たったことを公表した。「読解力」こそが人生をも左右し、数学者の藤原雅彦氏は「一に国語、二に国語、三、四がなくて、五に算数」、新井教授は「一に読解、二に読解、三、四は遊びで、五に算数」と。そして、その本では「現代社会に生きる私たちの多くは、AIには肩代わりできない種類の仕事を不足なくうまくやっていけるだけの読解力や常識、あるいは柔軟性や発想力を十分に備えているでしょうか」と読者に問いかけているとのこと。

その本を薦めた一人は、簡単に言えば「できる」と「わかる」は異なり、「わかる」ことにどう向き合っていくのかがこれからの課題ではないかと語った。連休には、溜まっている本を読んで読解力を鍛えるとしようか。

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